世界初!細胞核内に畳まれているDNAを円滑転写するしくみを解明

生命の設計図が細胞核内にあるDNAに塩基の配列として保存されている。生物は、DNA上の遺伝情報が記された領域すなわち遺伝因子を、適切なときに適切な器官や組織、細胞で働かせることにより、個体を形成し、生命機能を維持している。

遺伝子を働かせるためには、DNA配列がRNAにコピー(転写)される必要がある。そこで転写を司るRNAポリメラーゼは、全生物にとって必須の酵素であり、ヒトなどの真核生物には3種類のそれが存在し、そのうち「RNAPⅡ」がタンパク質をコードするメッセンジャーRNA(mRNA)の転写を担当――この転写は、1秒間に数十塩基のRNAを正確に合成する極めてダイナミックな反応である。

真核生物のDNAは、核内では「クロマチン」と呼ばれる数珠状の高次構造をとって収納されている。クロマチンはDNAとタンパク質の複合体であり、その基本単位はヒストンタンパク質の周りにDNAが約1.7回(145~147塩基対)巻きついた「ヌクレオソーム」。高次構造の変化は転写制御に関わっているものの、ヌクレオソーム構造そのものは、転写の進行に大きな障壁となっていると考えられ、事実そのような様子が観察されている。

また、実際の細胞核内にはRNAPⅡの転写伸長を補助するさまざまなタンパク質(転写伸長因子)が存在し、ヌクレオソームDNAのスムーズな転写を実現していると考えられているが、同因子がどのようにヌクレオソーム障壁を解除し、ヌクレオソームDNAの転写を可能にしているかは不分明だったという。理研の転写制御構造生物学研究チームと、東京大学定量生命科学研究所の共同研究チームは、RNAPⅡがヌクレオソームをスムーズにほどきながら塩基配列を読み取り、RNAに転写する仕組みを、「クライオ電子顕微鏡」観察により世界に先駆けて解明した。

詳細な構造解析の結果、転写伸長因子Spt4/5とElf1の存在により、①RNAPⅡとヌクレオソームが直接接触し、安定な停止状態に陥るのを防ぐ、②DNAとヒストンの間の結合を弱め、DNAをヒストンから引き剥がしやすくするとともに再結合を抑制する、③ヌクレオソームがRNAPⅡに対して角度を変える動きを促進し、RNAPⅡが転写の停止箇所を乗り越えて前進するのを助けるなど、ヌクレオソーム障壁を低下させ、RNAPⅡの進行を促進する仕組みが明らかになったという。

JSPS科学研究費 新学術領域研究(研究領域提案型)と基盤研究(B)、AMED創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS)の支援を受けて実施された。今回の研究は、生物学上の大きな謎に応えるものであり、エピジェネティクスや転写制御の研究を飛躍させる重要な基礎となり、転写伸長の制御やその破綻による疾患メカニズムについて、研究の発展が期待されるという。

成果は米国の科学雑誌『Science』オンライン版に先行掲載された。