タンパク質の構造をより詳しく知ることは、そのタンパク質の働きを正しく理解する上で重要だ。放射光施設を利用したタンパク質のX線結晶構造解析は、その目的を果たす強力な手法のうちの一つといえる。しかし、膜タンパク質やタンパク質複合体のように単離・精製しにくく、結晶化が非常に難しい場合もある。また、仮に結晶が得られたとしても、結晶が非常に小さくデータ収集が困難となることもしばしばあるという。
大型放射光施設「SPring-8」は、高フラックス微小X線ビームを利用できる世界有数の施設。中でも、理研ターゲットタンパクビームラインBL32XUでは、サイズが10マイクロメートル(μm、1μmは1,000分の1mm)以下の結晶からでも良質なデータを収集できるように、各辺が1~10μmに集光されたX線ビームを利用できる。
この微小ビームの性能を最大限に活用すべく、平田専任技師らは2010年以降、INOCC、SHIKA、KUMA、HEBI、HITO、KAMOなど様々な測定技術および測定システムの開発を進めてきた。
例えば、試料結晶への放射線損傷を低減することで高品質なデータを収集する技術(KUMA)、目視で確認できない結晶を微小X線で走査・検出するための高速二次元走査システム、走査システムから出力される大量の回折画像を解析して結晶位置を特定するシステム(SHIKA)、回折データをほぼ自動的に構造解析に利用するデータとして出力する技術(KAMO)などだ。
今回、共同研究チームは、これらのシステムを組み合わせることで、ビームラインで行うX線回折実験の自動化を試みた。ZOOシステムを利用すれば、放射光施設でこれまで行われてきた測定スキームを全て自動で行うことができるという。
研究グループによると、ZOOシステムの利点は、「データ測定やデータ処理に要する時間を大幅に短縮できる」「測定やデータ処理は自動(無人)でできるため、実験に人手がいらない」「データ品質を均一かつ高く保持しながらデータを収集できる」こと。また、すでにZOOシステムを利用した構造決定が行われているという。
研究成果は、放射光施設を利用したデータ収集を容易にするものであり、今後、結晶さえ準備できれば誰でも簡単にタンパク質の詳しい構造を知ることが可能になると期待できる。研究は、英国の科学雑誌『Acta Crystallographica Section D』の掲載に先立ち、オンライン版(1月28日付け)に掲載された。