2018年台風21号による大阪市街地での暴風シミュレーションに成功

京都大学の竹見哲也 防災研究所准教授、吉田敏哉 理学研究科博士課程学生、山崎聖太 同博士課程学生、長谷健太郎 同修士課程学生らの研究グループは、大阪市を対象として、2018年9月の台風21号の通過に伴って、実際の街の中心地でどこまで強い風が吹いていたのかをスーパーコンピューターを使ったシミュレーションで調べることに成功した。

2018年台風21号は、近畿地方を縦断し、大阪湾沿岸地域や関西空港をはじめ、各地に大きな被害をもたらした。この台風21号は、近畿地方においてかつて大きな被害をもたらした1934年室戸台風や、1961年第二室戸台風と似たコースを辿っている。

大阪市内の気象台観測点では、室戸台風 第二室戸台風に次いで観測史上歴代3位となる毎秒47.4メートルもの最大瞬間風速が記録された。大阪市街地では、建物や家屋の被害、樹木の被害、飛散物による被害など、各所で大きな被害が出た。大阪市の市街地のように高層ビルが林立する中心街では、場所によっては、気象台での観測値よりも強い風が瞬間的に吹いていた可能性がある。

ところが、実際の市街地内でどのくらいの瞬間的な風が吹いていたのかは、実測がないため分からない。そこで、研究グループではコンピューターによる計算機シミュレーションによって市街地の暴風を調べた。

研究グループでは、実際の市街地での気流を計算機でシミュレーションする技術開発を進めてきた。複雑な気流の乱れを計算する技術である「ラージ・エディ・シミュレーション(LES)」というシミュレーションモデルだ。市街地の建物や構造物の詳細なデータをこのモデルに取り込むことで、実際の市街地での複雑な気流のシミュレーションができる。
この研究では、大阪市街地の実際の構造物や建物のデータをLESモデルに組み込み、実際の市街地の中でどういった風が吹くのかをシミュレーションすることを試みた。また、台風21号という実際の気象状況を把握するため、日々の天気予報のために使われるような気象予報のための計算機シミュレーションモデルを使って、別に気象のシミュレーションも行った。気象シミュレーションと市街地の気流シミュレーションとを組み合わせることで、台風21号の通過に伴って大阪市の中心街での風の変動を再現した。

気象シミュレーションの結果から、台風の通過に伴って、大阪市上空約300メートルの高さでは、風速が最大で毎秒70メートル程度に達していたと推定されるという。

気象シミュレーションと市街地の気流シミュレーションを組み合わせることで、実際の気象状況において実際の市街地で吹く風を定量的に推定することが可能となった。市街地内の風は、周囲の建物や構造物の配置が高さによって大きく変化する。今後は、様々な大都市で同様のシミュレーションを行い、都市にひそむ暴風のリスクを把握することが大切だと研究グループでは説明する。