工場での生産準備作業を効率化するAI技術を開発、三菱電機と産総研

三菱電機と産業技術総合研究所(以下、産総研)は、工場での生産前に必要となる、FA(ファクトリーオートメーション)機器の調整やプログラミングなどの生産準備作業を効率化するAI技術を開発した。三菱電機のFA機器・システムに関する技術と産総研のAI技術との融合により、生産準備作業にかかる時間の短縮が図れるという。

多品種少量生産が求められる生産現場において、FA機器やシステムの調整、プログラミングなど生産準備作業の工数が増えている。これらの作業には独自のノウハウをもつ熟練技術者が必要で、その不足が課題となっている。

この課題に対し、生産現場で使われる幅広いFA機器やシステムに強みを持つ三菱電機の技術と、産総研のAI技術を融合し、FA機器やシステムの調整、プログラミングなどの生産準備作業を効率化するAI技術の開発に取り組んだ。

これにより、サーボシステムでは熟練技術者が1週間以上かかる位置決め制御を1日で自動調整する技術、レーザー加工機では加工面の品質を熟練技術者と同等精度で自動判定して熟練技術者に頼ることなく良好な加工品質が得られる加工条件に調整できる技術、産業用ロボットではシステム立ち上げ時に多大な労力を要する異常判定処理プログラムの作成時間を3分の1に削減する技術を開発した。

サーボシステムの位置決め制御では、許容される誤差の範囲内に位置決めする速さが求められる。サーボシステムでは、目標の位置や移動する距離によりシステムの振動などの特性が異なることが多いため、それぞれに合わせた最適な駆動速度や加速度を設定する必要がある。これらを設定するパラメーターの種類が多いと調整が困難なため、これまでの三菱電機の製品では熟練技術者が2種類18個のパラメーターを調整していた。

今回、パラメーターを熟練技術者でも調整が困難な8種類720個に拡張してきめ細かな制御が可能なシステムを構成し、AIを活用したパラメーターの自動調整に取り組んだ。最適なパラメーターの探索に必要となる時間が長いことが課題だったが、三菱電機が有する駆動制御技術で探索範囲を限定するとともに、産総研の有するベイズ最適化応用技術により探索を効率化した。

レーザー加工機を用いた板金切断加工では、レーザー光を集束するレンズの汚れや機械の温度変化、工作物の表面状態などの様々な要因により、加工面にキズや変色などが生じて加工品質が低下することがある。従来は、熟練技術者が加工面を目視して加工品質を判定し、これに応じて適切に加工条件を変更して、加工品質を向上させていた。

今回、三菱電機のレーザー加工に関するノウハウと産総研の画像認識向け機械学習技術を融合し、加工面の画像から加工品質を熟練技術者と同等レベルで自動的に判定する技術を開発。さらに、判定結果に基づいてレーザー加工機の操作員が自分で加工条件を変更して加工品質を向上させる標準的な手順も開発した。これにより、加工品質を向上させる調整を熟練技術者に頼らず実現できるようになったという。

産業用ロボットでは、構築するシステムごとに異なる様々な異常状態をあらかじめ想定し、把持ミスや位置ずれなどの異常が発生した場合に正常動作へ復帰させるための異常処理プログラムが必要となる。従来はロボットの動きを実現するプログラムの作成よりも、この異常処理プログラムの作成に多くの時間を費やしていた。

今回、産業用ロボットの力覚制御技術に関する三菱電機の知見と、産総研の有するデータ分析向け機械学習技術を融合し、ロボットの動作時に得られる力覚センサーの出力から異常発生状況を学習させる技術を開発。これにより、システムごとに個別作成していた異常状態判定アルゴリズムの開発が不要となり、異常処理プログラムの作成時間を3分の1に削減できたという。