風力発電用状態監視システムの国内導入が進む背景

NTNは、大型風力発電装置の異常兆候を早期検出する状態監視システム(Condition Monitoring System:CMS)である「Wind Doctor」の普及拡大が加速していると発表した。2012年に発売を開始した同システムは、IoTを活用した稼働状況の情報提供サービスの1つとして多くの実績を積んでおり、2018年11月時点で国内設置数は200台に迫っている。

風力発電装置は、約80メートルのタワーとその上に設置されたナセル、回転ブレード、ブレード根元の連結ハブで構成されている。ナセル内には、主軸、増速機、発電機および制御ユニットなどの駆動装置がある。


Wind Doctorは、この駆動系の軸受と歯車周辺のハウジングに取り付けたセンサーからデータを収集、蓄積、解析して異常兆候を把握し、不具合部位を特定する。この情報を基に、早期交換などメンテナンスをタイムリーに実施できることで、大きな故障を未然防止でき、設備の安定稼動につながる。

Wind Doctorによる異常検出の一例として、2016年秋に北海道の風車で、増速機の異常を検出した。風力発電業者がファイバースコープによる点検で、実際に損傷を確認したことから、発電出力を抑制しながら運転を継続。その間に補修部品や重機の手配調整、作業環境整備などを進め、増速機の交換作業は、風力が弱まる夏場に短期間で行われ、発電機会の逸失を最小限に留めることに貢献したという。

また、Wind Doctorでは、収集したデータをクラウドサーバで管理。NTNが無償提供する遠隔監視分析ソフトウェア「モニタリングクライアント」を利用し、NTNだけでなく発電事業者側でも情報共有が可能。例えば1年前との推移比較、監視部位ごとのレベル把握、あるいはデジタルフィルタ処理など、豊富な解析機能を搭載し好評を得ているという。

NTNは2014年1月から2018年2月まで、東京大学、産業技術総合研究所などとNEDOスマートメンテナンス技術研究開発に参画し、風力発電の故障予知技術の高度化に取り組んだ。この成果により、設備の停止時間を大幅に短縮し、風力発電の設備利用率を21%から23%に向上できることを確認している。

国内の風力発電は、欧米諸国に比べると導入が遅れているが、再生可能エネルギーの潮流に乗り、今後の大幅増加が見込まれている。しかし、台風や落雷、急峻な山岳地帯、予期せぬ突風など、日本特有の厳しい環境下にさらされることも多く、風力発電装置の故障頻度が高いことが課題であり、設備を安定稼動させるためには適切なメンテナンスが欠かせない。

シンクタンクの調査によれば、欧州ではCMSを搭載した風力発電システムに対して保険料を優遇する保険会社があることから、導入が先行。日本においてもこうした傾向が出てきていることから、搭載率は2020年頃には20~30%に、2030年頃には50%程度になるものと予想されている。