レアメタル不要、MnO2触媒にてバイオ由来のPEF原料を合成

海ガメの鼻孔からストローを抜く映像が世界を震撼させた。昨年来、プラスチックの行方が気になり、スーパーマーケットの入口ではポリエチレンテレフタレート製の、いわゆるPETボトルの山を見つめてしまう。がPETよりもバリア性に優れたバイオ由来のポリエチレンがある。


世界では、化石由来の様々な材料・製品に替わるものの研究開発が進んでいる。PETを代替するポリエチレンフラノエート(PEF)は生物由来のポリエチレングリコールと2,5-フランジカルボン酸(FDCA)を重合したものであり、再生可能性、ガスバリア性、熱安定性、低温での熱可塑性を持つため、食品容器・包装材としてのみならず、電子材料の封止材としても高いポテンシャルを有する。

"PEF"ボトルは東京五輪・パラリンピックでの大幅な使用増が視野に入れられるなど、今後のFDCA製品市場の開発と拡大の可能性は極めて高い。固体触媒を用いた5ーヒドロキシメチルフルフラール(HMF:糖や炭水化物から生成)酸化によるFDCA合成反応は貴金属担持触媒の研究が主であり、過剰量の強塩基(NaHO)の添加や反応溶液への金属の溶出といった問題点がある。

一方、貴金属フリーな触媒系は一般的に活性が低く、高収率でFDCAを得られる反応系はなかった。ゆえに希少金属触媒を使わずにHMFをFDCAへと効率的に変化できる触媒系の開発に着手したという。東京工業大学とJSTは今月7日、同大学教授らが、β-二酸化マンガン(βーMnO2)を触媒に用い、再生可能なバイオマス(糖)由来化合物からポリマー原料の高効率合成に成功したことを公表した。

主にJST ALCA「多機能不均一系触媒の開発」事業によってその成果が得られた。今回の研究では、安価で豊富に存在するマンガン酸化物の多様な結晶構造を精密に制御し、FDCA合成に最適な構造がβーMnO2であることを実験及び理論計算により証明。独自開発したアモルファス前駆体の低温結晶化法により得られたβーMnO2ナノ粒子が、PEF原料のFDCAへの酸化反応を促進する固体触媒として機能することを発見した。

これまで液相酸化反応における反応性の違いが未解明であった、各二酸化マンガンについて、第一原理計算を用いて結晶構造内の酸素の空孔形成エネルギーを算出したところ、βーMnO2の三つのマンガンを架橋する酸素原子が最も空孔になりやすい(=反応しやすい)ことが分かり、実際に各構造中の酸素の反応性を昇温還元測定(H2TPR)により求めた。結果、βーMnO2のそれが最も高いことが示唆され、触媒反応の活性序列とも一致し、βーMnO2の液相酸化反応への優れた触媒能が初めて明らかとなった。

既存触媒の6倍の表面積を持つβーMnO2触媒合成の新手法を開発した、今回の研究成果は、低炭素社会の実現を加速するものであり、米国化学会誌「JACS」電子版に速報された。