想像してみて欲しい。閉じられた空間、坑内での様々な作業を――。重機が唸りを上げ、粉塵の舞い上がる作業現場において、安全と健康を確保しつつ、工事の進捗や工程を確認したり指示したりする。言葉による意思疎通は容易ではない。
トンネル現場では防塵マスクの着用、騒音レベルによっては耳栓の着用も要する。それら保護具はコミュニケーションの妨げになり、生産性の低下や事故の要因にもなりかねないという。清水建設は、京セラの協力を得て、騒音下においても入坑者が防塵マスクや防音耳栓を着用したまま円滑にコミュニケーションできる通話システム「骨伝導ヘッドセット(仮称)」の基本開発を終了した。
同システムは、生産性と安全性の両立を図る次世代型トンネル構築システム「シミズ スマート・トンネル」の技術開発の一環によるものであり、骨伝導スピーカー、骨伝導マイク、無線接続アダプター、超小型通信機器から構成されていて、長崎県内で施工中の木場トンネル作業所において、プロトタイプの性能実証で良好な結果が得られたという。
骨伝導スピーカーは音声の振動をこめかみから聴覚神経に伝導させ、骨伝導マイクは声帯やこめかみの振動から音声を拾う。ゆえに通話時に保護具の脱着は不要。通話はトンネル内の騒音に影響を受けない。上記システムの操作方法は極めて簡単――マスクを着用したまま名前をいうだけで、音声認識AIアプリが自動的に選定した単数/複数の相手と、自在に通話できる。
木場トンネル切羽付近での実験では、90~95dB(電車通過時のガード下程度)の騒音下でも明瞭な音質・音量で通話できたという。骨伝導ヘッドセットの試作機を引き続き木場トンネルで供用する清水建設は、使用者のニーズを開発に反映。京セラはバイタルサインセンシング機能付きデバイスの提供も視野に入れ、来夏にもワンパッケージ化した高性能で小型の製品版を完成。'20年度の商品化をめざす構えだ。