熱帯低気圧の予兆、AI用いた新手法にて高い精度で検出する

近ごろの気象は荒々しい。日本ではかつて経験したことのないスーパー台風の到来さえ危惧されている。アジアにおける台風やアメリカ大陸のハリケーンなど、それら熱帯低気圧の発生は、雲の発達具合を衛星から監視したり、観測データを用いた気象モデルのシミュレーションによって予測されている。


大気現象は非線形性が強く、遠い将来を予測しようとすればするほど、気象モデルを使った予測結果はばらつきが大きくなる。不確実性の高い気象分野において、昨今産業や医療等に革新をもたらしつつあるAI(人工知能)、ビッグデータに潜む特定事象の検出に長けたディープラーニング(深層学習)の応用が期待されているという。

JAMSTEC地球情報基盤センターの研究員らは、九州大学大学院ISEEの主幹教授らと共同で、ディープラーニングを活用し、全球雲システム解像モデルNICAMによる気候実験データから熱帯低気圧の予兆雲(タマゴ)を高精度検出する手法を開発した。同手法は特に夏の北西太平洋において、発生1週間前の熱帯低気圧のタマゴを高精度に検出可能であることを示したという。

NICAM20年分の気候実験データに熱帯低気圧の追跡アルゴリズムを適用して、熱帯低気圧のタマゴおよび発達中の雲画像5万枚を生成。これらと非発達低気圧の雲画像100万枚の計105万枚の画像から学習データセット10組を作成し、深層畳み込みニューラルネットワークを用いた機械学習によって、特徴を異にする10種類の識別器を生成した。これらによる結果を総合評価し最終判断を下すアンサンブル識別器も構築した。

アンサンブル識別器を未学習データ10年分に適用した結果、たとえば9個の熱帯低気圧・タマゴのうち8個を正しく検出(捕捉率88.9%)しつつ、予測した82領域のうち誤検出はわずか8領域(空振り率9.8%)の精度が得られた。海域ごとの検出性能評価では、平均的に北西太平洋が最高、北インド洋が最低性能となり、各海域における熱帯低気圧の寿命の長さや学習データの数に強く依存することが明らかになった。

北西太平洋の台風シーズン(7月~11月)の熱帯低気圧・タマゴについては、捕捉率79.0%~89.1%に対し、空振り率は32.8%~53.4%と比較的低く、高い検出性能を得られることが分かった。熱帯低気圧のタマゴは時刻を遡るにつれて捕捉率は低くなるが、北西太平洋では10年間の平均で、発生2日前、5日前、7日前のタマゴのうち91.2%、77.8%、74.8%を検出することに成功した。

データ駆動型の気象予測手法は、従来の物理方程式に基づくモデル駆動型手法の課題を克服し、気象予測の新たな展開を拓くものとして期待できるという。研究はJSTさきがけの支援、およびその一部はJSPS科研費の助成を受けて行われものであり、今回の成果は、日本地球惑星科学連合英文論文誌(電子版)に19日掲載される。