神経細胞が肝臓内の免疫細胞を刺激、再生を促すことが明らかに

沈黙の臓器のひとつであるそれは人体の中で最も大きいのに、病気になっても自覚症状が出にくい。肝臓では2,500億個の細胞が毎日血液を解毒したり、養分を貯蔵したり、タンパク質や脂質を作り出すためにせっせと働いている。この臓器は少々の障害を受けてもくじけず、自己修復する。


肝臓切除後などの重篤な肝臓傷害時には、早い時期に急速な肝臓再生が起こり、その後緩やかな再生が続くことが知られている。老化するとこの急速な再生が妨げられると考えられている。がしかし、この早い時期の急速な肝臓再生にどのような意義があるのか、それがどのような仕組みで起こっているのか、これまで明白でなかったという。

東北大学大学院医学系研究科糖尿病代謝内科学分野および同大学病院糖尿病代謝科のグループは、肝臓が傷害された際に脳からの神経信号が緊急に肝臓再生を促す仕組みを解明。また、このメカニズムは、肝臓が傷害された際に命を守る重要な仕組みであることも明らかになったと今月14日公表した。同グループの研究では、マウスの肝臓の70%を切除し重症の肝臓傷害を起こす実験により、脳からの信号が緊急に肝臓を再生させることを解明したという。

仕組みはこうだ――。脳からの信号は迷走神経(自律神経の一種で副交感神経に属す)を用いて肝臓に届けられ、次に迷走神経はアセチルコリン(神経伝達物質)を分泌して肝臓内のマクロファージ(免疫細胞)を刺激し、インターロイキン6(IL-6)という物質(免疫機能の調節など多くの機能を有する生物活性因子)の分泌を促し、さらにIL-6が肝臓細胞内のシグナル伝達経路(FoxM1経路:転写因子FoxM1が種々のタンパク質を誘導して細胞増殖を引き起こす信号伝達経路)を活性化して、強く肝臓の再生を促進する。

肝臓内に広く、かつ多数存在するマクロファージを刺激することは、神経信号を肝臓という巨大な臓器全体に効率よく伝達するために重要と考えられる。この神経信号がなければ重症肝臓傷害の際の生存率が低下することを見出し、その状態でFoxM1経路を活性化することで重篤な肝臓傷害の際の生存率を回復させることにも成功した。

同グループが発見した多段階の仕組みを制御することで、肝臓癌手術の際に広範囲の肝臓切除が可能となる。再発を防ぐために癌を含んだ肝臓組織を広く取り除ける上に、切除手術後の合併症が少ない――治療法の開発が進むだろう。重篤な肝障害の治療の開発や肝臓の癌などの根治をめざした治療法への応用にもつながるものと大いに期待される。

今回の研究は、文部科学省科学研究費補助金および日本医療研究開発機構(AMED)「老化メカニズムの解明・制御プロジェクト」の支援を受けて行われたものであり、肝臓が老化をきたすメカニズムの解明にもつながるだろう、上述の成果は、国際学術誌「Nature Communications」(電子版)に掲載された。