長期・短期記憶を均衡させつつ予測するAI、各種エッジデバイスへ

昨今よく言われる「第4次産業革命」や「データ駆動型社会」は、IoT(モノのインターネット)およびセンシング技術を基礎にしている。新たなしくみが従来不可視だった多くの物事をデータ化し、この膨大なデータを収集し分析・解析することにより、各種産業設備や社会インフラなどが革新される。


絶えず流れ続け、その傾向が時間変化する性質を持つデータストリームについては、社会インフラ、工場などのシステムの状態をリアルタイムで監視し、データを分析することで、設備の故障予防や稼働率の向上に貢献する効果が期待できる。そうしたデータの有効活用には、大規模な計算機を用いずに様々な種類のデータストリームから将来値を常に精度良く予測するリアルタイム予測技術が必要となる。

傾向が時間経過に伴い変化するデータストリームに対応する従来の手法では、分析作業を行う設備側(エッジ)デバイスの演算能力やメモリ容量の制約から、直近のデータを重視し、古いデータを消去、忘却する仕組みが主に取り入れられてきた。がしかし、この仕組みでは長期にわたって繰り返される変化のパターンを十分に活用できないため、予測精度に課題があったという。

東芝は、エッジデバイスでの稼働を想定し、社会インフラや工場などの設備に組み込まれた多数のセンサより連続的に収集されるデータストリームから、リアルタイムに高精度な将来予測値を算出する人工知能(AI)「Online Prediction Method of Stream Data with Self-Adaptive Memory(OPOSSAM)」を開発した。  

「OPOSSAM」は、逐次観測される実測値と予測値との誤差に基づき、短期記憶と長期記憶の分析時の重み付けをリアルタイムに自動調整することで、時間の経過に伴い変化するデータ傾向に適応し、将来値の予測を高い精度で行う。さらに、長期記憶には代表的なパターンのみを選定して保管すると共に、各パターンを使った予測値が実測値と大きく乖離する場合には、乖離パターンを削除し、記憶量を一定以下に抑制することで、メモリ容量の限られるエッジデバイスでの動作を可能にした。

同技術は、人間の記憶管理に着想を得て、直近の短期的な時系列変化の傾向に加え、過去の繰り返し傾向を学習する長期記憶を併せてバランスよく活用するもので、将来値を高精度に予測できる。長期に現れる傾向については、代表的なパターンを選定して管理するため、メモリ使用量が削減できるという。東芝はこれを交通インフラ等の公開ベンチマークデータにて性能検証した。結果、従来技術と比較し、13%の精度向上を確認した。

今回開発した技術はサイバー・フィジカル・システム(CPS)を具現化するテクノロジーの一つであり、その詳細は米シアトルで開催中のイベント「IEEE BIG DATA 2018」にて発表されたという。