世界初! 省エネ社会を加速するパワーデバイスの基盤技術開発に成功

あらゆるモノがネットにつながりスマートになってゆく。世界は電気で動いている。事情の一端は日本でも最近の停電事故等で皆が知るところとなったし、「CASE」(接続・自律・共有・電動)が合言葉となった自動車業界をみてもわかる。未来社会はパワー半導体が実現する。


家電や産業設備、車や列車などにも搭載されている、様々な電気機器には、使用する電力(=電圧×電流)を制御するために「インバータ」や「コンバータ」、「周波数変換器」、「レギュレータ」といったパワースイッチングデバイスが多用されている。電力変換時の損失をできるだけ少なくし、省エネ化を図るため、同デバイスの多くに半導体トランジスタが用いられている。

なかでも材料としての酸化ガリウム(Ga2O3)は、非常に大きなバンドギャップ(価電子帯と伝導帯のエネルギー差)を有することから、既存の半導体デバイスを上回る高耐圧・大電力・低損失特性が期待できる。また、融液成長法により簡便かつ安価に高品質・大口径単結晶ウェハーが製造可能である産業上重要な特徴も有す。ゆえに現在、Ga2O3パワートランジスタ、ダイオード開発が世界的に活発化しているという。

NICTのグリーンICTデバイス先端開発センターと、東京農工大学の共同研究グループは、シリコンを用いたn型のそれに加え、独自開発の窒素を用いたp型「イオン注入ドーピング技術」を使って、高性能「縦型酸化ガリウムトランジスタ」(β-Ga2O3 MOSFET)の開発に世界で初めて成功。従来報告されている縦型Ga2O3トランジスタを上回る特性を実現した。今回のデバイス作成技術は、量産に適し、汎用性も高く、低コスト製造が可能であるため、電機・自動車メーカーにおけるGa2O3パワーデバイス開発の本格化につながることが予想されるという。

共同研究グループが開発した技術による縦型Ga2O3トランジスタは、ゲート電圧によるドレイン電流量及びオン/オフ状態の優れた制御がなされている。実用スイッチングデバイスとして求められるトランジスタ動作時5~6桁以上のドレイン電流オン/オフ比に対して、それを大きく上回る8桁以上を実現。最安定構造であるβ-Ga2O3の優れた材料特性、高い薄膜エピタキシャル成長技術、開発済みのプロセス技術及び新たに開発したNイオン注入ドーピングプロセス技術の融合が、この度の成果をもたらしたという。

省エネ社会の新半導体デバイス分野における大きな技術的ブレークスルーであると同時に、近い将来の新半導体産業の創出につながることを期待させる。研究の一部は、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「次世代パワーエレクトロニクス」によって実施されたものであり、今回の成果は、米国電気電子学会誌「IEEE電子デバイスレター」早期アクセス版で公開済み。正式版は同誌'19年1月号(12月27日頃発行)に掲載される。