数μm~数mm大のそれは、微量元素組成や同位体比組成の測定から、地質ができた時代やその環境に関する詳細な情報源となる。地層解析における重要な指標であり、研究上不可欠なツールだが、脆弱かつ複雑な形態ゆえに熟練の専門技術者が、顕微鏡下で1つずつ鑑定していた。さらに上記測定ではそれらを1つずつ拾い上げて、専用試料台に整理して再配置する「分取」を要し、相当な時間と労力を費やしていた。
微化石に限らず、微小な粒子を取り扱う鉱工業や農林水産業、医療分野の検査試験などでも、人材確保や負担軽減が求められているという。産総研地質情報研究部門の海洋地質RG、NEC、マイクロサポート、三谷商事の共同開発グループは、堆積物に含まれる多様な粒子の中から微化石をAI(人工知能)を用いて大量に鑑定し、自動的に分取するシステムを世界で初めて開発した。
同システムは、顕微鏡部、マイクロ・マニピュレーター部、AI部からなる。顕微鏡部はコンピューター制御された電動X-Y ステージと高解像CCD顕微鏡カメラが実装され、自動的に微化石などの多様な粒子の画像を取得し、それらの位置を精密に記録できる。マニピュレーター部は、微化石の位置情報をもとにそれを分取し、所定位置に集積する機能を持つ、先端には極細ガラスチューブによるスポイトタイプを採用した。
AI部には、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を搭載したディープラーニングソフトウェアを採用し、従来の機械学習で困難だった複雑な形態の微化石を迅速、正確に鑑定可能とした。顕微鏡のステージ上での粒子の重なりを誤判定されぬよう、散布した粒子が一定間隔で並ぶ試料台を新たに考案・作成した。総合的なシステムでは、専門技術者と同じ精度を保ち、大量の微化石を高速で自動鑑定し、人の手では成し得なかったスピードで微化石を大量に自動分取できるようになった。
数か月で教師データとなる画像の取得とAIを用いたモデルを構築し、単一種の微化石1,000個体の鑑定・分取を3時間程度で行える。運用フェーズでは特定の微化石の分取と集積を長時間、自動的に行えるので、地層解析を効率化できる。100μmにも満たない微化石の分取と集積もでき、石油探鉱などでの地層解析の高精度・高速度化や各種分野での活用が期待される。
今回のシステム開発は、日本学術振興会の新学術領域研究(研究領域提案型)「南大洋の古海洋変動ダイナミクス」、基盤研究(B)「珪質微化石の殻に記録された海洋環境:同位体比および極微量元素の種レベル分析」による支援を受けて行われたという。