宇宙線起因の通信装置のソフトエラー対策、ITU-T国際標準制定
ソフトエラートは、永久的にデバイスが故障してしまうハードエラーとは異なり、デバイスの再起動やデータの上書きによって回復する一時的な故障のことを指す。
国際標準の制定に向け日本電信電話、富士通、日立製作所、日本電気、沖電気工業は、情報通信技術委員会に開設された「通信装置のソフトエラーに関する標準化Adhoc」(以下、SOET_Adhoc:Soft error testing Adhoc)において共同で国際標準案を起草し、ITU-T SG5会合ではOrangeとともに勧告化を推進してきた。
近年、宇宙線によって生じる中性子線に起因するソフトエラーが地上で使用する通信装置でも増加しつつある。ソフトエラーによって、半導体メモリに保存されているデータが一時的に書き換わることで誤動作やシステムダウンを引き起こす恐れがある。その一方で、再起動や上書き保存といった簡易な処置で故障が回復するため、ソフトエラーに伴う故障の原因特定が困難と言われている。
ソフトエラーが発生すると、通信サービスの利用者に多大な影響を及ぼす可能性があり、また運用者にとってもその原因究明・対策が大きな負担となる場合がある。通信装置は、このような故障も想定して通信サービスに影響を及ぼさないように設計されているが、ソフトエラーはその再現が難しいため、開発段階で十分な検証を行うことができなかった。
しかし、近年、加速器中性子源を用いてソフトエラーによる通信装置への影響を測定できるようになったことで、開発・導入段階でソフトエラーの影響を把握し、改善を行った上で通信装置を実運用ネットワークへ導入することが可能となりつつある。これにより、大幅な通信品質の向上を図れるが、設計や試験の手法・評価について指標となる品質の基準が求められていた。
このような背景から、ソフトエラー対策に関する設計から評価、品質基準を定めることを目的に、2015年10月のITU-T SG5会合において、通信装置のソフトエラー対策に関する検討プログラムの開始が承認され、SOET_Adhoc委員各社が中心となり勧告草案の作成を行い、国際標準として制定された。
この勧告は、5つの勧告本編と補足資料で構成されている。ソフトエラー対策に関する設計・試験・評価の方法および品質評価基準が定義され、またネットワークに求められる信頼性のレベルに応じたソフトエラー対策を実施するための指標も示されている。