IoT(モノのインターネット)への注目が高まる中、「フォグコンピューティング」という概念が提案されてきた。クラウド(雲)と端末デバイスの間に、フォグ(霧)と呼ばれる計算装置を設置し、計算負荷の小さい一部のタスクをクラウドサーバの代わりに担当させるものだ。IoTでは、複数の端末に対して同時に管理する。クラウドサーバでの処理やクラウドサーバとの通信には一定の時間を要するため、集中管理型でIoTを適用できるには1秒未満の速さで情報処理と制御が実行されなくてはならなかった。
その一方、フォグコンピューティングの導入を想定した制御系設計の研究は、これまでほとんど見受けられなかった。特にIoT環境では、制御対象である端末デバイスのセキュリティを保証するために、端末の内部情報を秘匿化しながら制御することが重要となる。しかし、フォグコンピューティングの特徴を捉えた秘匿化制御技術の研究は、これまでなされていなかった。
研究では、システムを制御するためのコントローラー(フォグ)が実装される場合を想定し、制御対象のセンサー情報を秘匿化しながらコントローラーに受け渡し、フィードバック制御する技術を開発した。この方法では、センサー情報を直接フォグに送信するのではなく、「セキュリティ信号」と呼ぶランダムな信号を加えて秘匿化して送信する。その結果、制御対象の内部情報の秘密が保たれるという。
セキュリティ信号を加えることによって、「センサー情報」と「秘匿化された情報」の相互情報量を任意の値に設定可能。相互情報量を小さくすることで、センサー情報の秘匿化が図れる。通常、信号を秘匿化すると、どこかの工程で信号の復号化が必要となるが、この方式では復号化することなく、フォグでの計算量を低減できる。
また、研究では、この秘匿化制御技術を蓄電池の充電率を目標値に到達させる制御へ適用した。シミュレーションの結果、充電率の情報を秘匿化しながら目標の値に制御できることが示された。
将来、蓄電池が家庭にまで広く普及することが想定されるが、充電率の履歴から在宅状態の推定ができてしまうと、空き巣などの犯罪被害につながる恐れがある。今後、各家庭の充電率はその家庭の生活パターンを示す個人情報であり、秘匿化が強く求められる。こうしたエネルギー管理システムにおいて、今回の研究で開発した秘匿化制御技術は有効であるといえると研究グループでは説明する。