理研 開拓研究本部Kim表面界面科学研究室のレイモンド・ウォン特別研究員、横田泰之専任研究員、金有洙主任研究員らの共同研究グループが開発。研究内容は、米国の科学雑誌『Journal of the American Chemical Society』電子版に掲載された。
これまで固体電極とイオンが溶けた電解質溶液の界面(固体/液体界面)で進行する電気化学反応について、多くの研究が行われてきた。電気二重層では、界面近傍には大きな電位差が生じる。これを利用して、電子の授受を伴う様々な電気化学反応(酸化還元反応)が進行することが知られている。
今回、研究グループは、既存のその場計測またはオペランド計測では解明が難しい、イオンの大きさ程度しかない厚さ1nmの電気二重層の詳細を解明するため、溶液中の電気化学反応と真空中の光電子分光を同一試料で計測できる複合システムを開発した。
このシステムを用いると、「溶液中の電気化学測定→電極の引き上げ→真空中の光電子分光測定」を繰り返し行える。電気化学測定では、電気二重層において酸化還元反応がどれくらい進行したかが分かるのに対し、光電子分光測定では、どの元素がどのような状態で存在するか、分子はどれくらい酸化されやすい状態か、印加電位が保持されているかといった重要な情報を得られる。
溶液から引き上げた後の電極が電気二重層の情報を保持しているかを検証するため、溶液中で印加電位に応じて酸化還元反応を示す「フェロセン」という錯体分子をプローブとして電極に固定して、電気化学測定と光電子分光測定により化学的な状態を追跡した。
研究では、電気化学測定と光電子分光測定ができる複合計測システムを用いることで、真空中においても固体/液体界面に形成される電気二重層が保持されることを示した。研究グループによると、この検証実験の最も重要な成果は、溶液中で起こる電気化学反応の詳細を真空中で精密解析することに意義があると見いだしたことにあるという。
今後、蓄電池や電気二重層キャパシタなどの電気化学デバイス、二酸化炭素還元の電極触媒などの開発において、より高効率な設計を行う指針を与えると期待できるという。