遭難者救助のドローン無線中継システム実用化に向けた提言、ソフトバンク

ソフトバンクは、雪山や山岳地域などでの早期の遭難者救助を目的に、独自に開発したドローン無線中継システムを用いた屋外実証実験を実施するために、実験試験局の本免許を総務省北海道総合通信局から取得。2018年3月30日から9月30日まで実証実験を行い、同システムを実用化するための制度面の整備への提言を含めた実証実験の結果を公表した。


この実証実験に先立ち、ソフトバンクは、2016年8月31日から2017年3月31日までの間、総務省北海道総合通信局から雪山や山岳地域での遭難事故による遭難者の迅速な救助を目的とする「携帯・スマホ等を活用した遭難者の位置特定に関する調査検討」を受託。調査や試験などを実施した。

この試験事務では、携帯電話やスマートフォン(スマホ)の位置情報サービスを捜索活動に生かすことを目的として実施。雪上車係留気球無線中継システムおよびドローン無線中継システムの臨時無線中継システムを活用し、雪中に埋もれたスマホのGPS機能で取得した位置情報を、それぞれの臨時無線中継システムで中継した移動通信ネットワークを介して捜索側のPCやタブレットに通知して、遭難者の位置を迅速に特定する「遭難者位置特定システム」を提案した。その実証実験を北海道倶知安町のスキー場で行い、その有効性を確認すると共にノウハウなどを蓄積してきた。

北海道大樹町の「大樹町多目的航空公園」で、2018年4月からソフトバンクが独自に改良したドローン無線中継システムを利用した屋外実証実験を実施した。今回は、従来の単一移動通信事業者のスマホとの無線中継に代わり、複数の移動通信事業者の電波を同時に無線中継する機能を開発。ドローン無線中継システムを介してそれぞれの移動通信事業者のスマホとデータ送受信を可能にした。雪中に埋もれたスマホのGPS機能で取得した位置情報を捜索側のPCやタブレットに通知し、遭難者が加入する移動通信事業者に依存することなくスマホの位置が特定できることを確認した。

また、移動通信ネットワーク経由でドローンを制御するための通信モジュールを開発してシステムに搭載することで、移動通信ネットワークを介して遠隔地からドローンを操縦することを可能とした。また無線中継局の電波の送信や停止などの運用を遠隔地から操作することを可能にしたことから、ドローン操縦者や通信事業者が現地に赴くことなく本システムを運用できるようになり、捜索開始までの時間を大幅に短縮できることが実証実験で明らかになった。

さらに、このシステムを用いればドローン無線中継システムを介して現場上空での無線中継が可能となるため、実証実験では遠隔操縦でカメラを搭載した別のドローンを、位置を特定した遭難エリア上空に飛ばして、現場の状況をリアルタイム映像として確認することができた。

システムの実用化に向けて新たに追加したこれらの機能により、移動通信事業者やドローン操縦者が現地に直接赴くことなく、システムが運用できるようになり、また遭難者が加入する移動通信事業者に依存することなくスマホの位置特定が可能となった。運用開始までの時間を大幅に短縮できることが今回の実験で明らかになったと同社は説明する。

これらの実証実験を通して雪中約5メートル程度の深さに埋まった遭難者の位置特定が、所持しているスマホの移動通信事業者に依存することなく可能であることを確認。このシステムが雪中深く埋まった遭難者の早期の救助支援に大変に有効であることを確認した。。また、移動通信ネットワークを使った遠隔操作が可能になり、システムの運用開始までの時間が大幅に短縮されるため、救助隊による初動捜索、救助に有効であることが示された。システムを早期に実用化させるためには制度面などの整備が必要であり、その一部を提言案としてまとめている。

ドローン無線中継システム実用化に向けた提言としては、「無線通信関連での制度改正」「ドローン飛行関連での制度改正」が求められるという。

ドローン無線中継装置は今までの実証実験を通して技術的に動作可能であることを確認し、実際の救助活動の現場への配備が可能と考えている。しかし、携帯電話の無線設備(基地局、レピーター、携帯電話機など)は干渉条件などの知見が足りないため、現状ではドローンへ無線設備を搭載したサービス提供が実現できない。ソフトバンクでは、実証実験の知見などを関係省庁へ提供しつつ、それらの省庁と協力して遭難者などの人命救助に本システムの利用ができるように、早期の制度化または制度改正が必要だと提言する。

また、移動通信ネットワークを介してドローンを遠隔地から操縦する場合は、目視外飛行に当たるため、それを実現するには関係省庁の承認を受ける必要がある。そこで、実証実験の知見なども関係省庁へ提供をしつつ、それらの省庁と協力して遭難者などの人命救助にシステムの利用ができるように、早期の制度化または制度改正が必要だという。