水素社会を実現する、ハイブリッド材料開発に期待ふくらむ

温暖化対策に加え、あらゆる生物および社会の持続可能性を高めるためにも、化石由来のエネルギー源を再生可能なもので代替することが急務である。青い地球上に遍在する水素がその最有力候補であることは疑いの余地がない。旧来社会を牽引してきた資源が乏しい日本では特に――


動力源から水しか排出しない燃料電池車(FCV)の技術は、家庭用エネファームや発電所等にも適用できる。太陽光や風力などの再生可能エネルギーから水素を生成すれば、カーボンフリーの好循環が実現可能。モノの製造から利用まで究極のグリーンエネルギーで賄うことができる。ゆえに日本では昨年末、2050年までのビジョンとその実現に向けた'30年までの行動計画を示す「水素基本戦略」(経産省PDF資料)が策定された。

電力、運輸、熱・産業プロセスのあらゆる分野の低炭素化に貢献し、エネルギー安全保障・経済効率性・環境適合・安全性の"3E+S"において大変有意義であり、日本が世界に先駆けて革新をめざす。次世代のエネルギー源――近未来の水素社会では、水素の効率的な貯蔵が必須となる。

貯蔵方法においては、パラジウム(Pd)など遷移金属が優れた水素貯蔵特性を持つことが以前より知られていて、近年、遷移金属のナノ粒子と金属有機構造体 (MOF)を組み合わせることで、遷移金属単体に比べて、水素吸蔵特性が格段に向上することが報告されている。が、予想された界面における電荷移動の特性向上への関与について、定量的な機構は解明されていなかったという。

物質・材料研究機構(NIMS)は、九州大学、京都大学と共同で、PdとMoF(銅 (II) 1,3,5-ベンゼントリカルボキシレート)のハイブリッド材料(Pd@HKUST-1)が、Pd単体に比べて約2倍の優れた水素貯蔵特性を持つのは、PdからMOFへ電子約0.4個分の電荷が移動したことにともなう、ごくわずかな電子状態の変化によることを明らかにした。大型放射光施設 (SPring-8) にあるNIMSのビームラインを用いて調べた結果だという。

電子約0.4個分の電荷移動によって、Pdの電子バンドに水素を吸蔵するための受け皿が増え、Pdナノキューブ単体よりも大幅な水素吸蔵特性の向上をもたらしたことが分かった。遷移金属ナノ粒子およびMOFからなるハイブリッド材料は、水素吸蔵だけでなく高効率な水素化反応触媒としても期待されている。今回示した電子状態の測定、解析法を用いることで、今後、水素吸蔵特性や触媒性能を格段に向上させた新たなハイブリッド材料の開発が促進されることにも期待がふくらむ。

この度の研究は、JST戦略的創造研究推進事業ACCELの「元素間融合を基軸とする物質開発と応用展開」プロジェクトの支援を受けて行われたものであり、成果は英科学誌ネイチャーの「Communications Chemistry」に掲載された。