ブラックホールや暗黒物質の謎を解明するプロジェクト

日立システムズは、東京大学 宇宙線研究所などが32カ国の研究機関とともに参画している国際共同プロジェクト「CTA(Cherenkov Telescope Array)計画」で建設している大型ガンマ線望遠鏡向けに、データセンターの構築・運用技術を応用した特殊な電源システムを納入し、2018年10月に本番稼働を開始することを発表した。


CTA計画とは、宇宙空間の約25%を満たすと言われる暗黒物質やブラックホールの謎を解明するため、従来装置の10倍以上の感度と広い光子エネルギー領域の観測が可能なガンマ線天文台の建設を目指す国際共同プロジェクトだ。

世界32カ国、約1200人の研究者が参画しており、日本からはノーベル物理学賞受賞者の梶田 隆章教授が所長を務める東京大学 宇宙線研究所などが参画している。

「ガンマ線バースト」と呼ばれる突発的な物理現象が発生した際に、ガンマ線望遠鏡によりガンマ線を観測することで、ブラックホールや暗黒物質の謎を解明することが期待されている。しかし、観測可能なガンマ線バーストが発生するのは、観測条件も考慮すると1週間に1回程度、時間にして1秒から1000秒ほどしかなく、発生した際に、発生した方向へ瞬時にガンマ線望遠鏡を回転させる必要があるという。

このわずかな機会を捉えるためには、通常時は星の運行に合わせて停止またはゆっくりと稼働させておき、ガンマ線バーストが発生したら、その到来方向へと瞬時にガンマ線望遠鏡を回転させて観測を開始する必要がある。急速回転させるためには多くの電力が必要となるが、常時その電力を確保することは、観測地の電力事情やコスト面から困難だった。

そのため、CTA計画の推進に向けて、通常時には低電力をガンマ線望遠鏡に安定供給しつつバッテリーに蓄電するとともに、必要なときに多くの電力を短時間で供給する電源システムが必要不可欠だったが、世の中にそのような電源システムは存在していなかった。

こうした特殊の電源システムを構築してCTA計画に貢献するため、日立システムズは、関連会社であるPowerware Systems Sdn Bhdとの連携により、データセンターの構築・運用技術を応用し、UPS(無停電電源装置)とフライホイールバッテリーを組み合わせたコンテナ型の特殊な電源システムを構築し、スペイン領のカナリア諸島ラ・パルマ島のガンマ線天文台に納入した。フライホイールバッテリーとは、わずかな電力で内部の弾み車を動かし、その慣性を利用して蓄電を行う電源装置のこと。

コンテナの内部にはUPS、フライホイールバッテリーに加え、精密空調機、IoT技術を活用したリモート設備監視設備が搭載されており、安定稼働を支援する仕組みを整えている。通常時は低電力を安定供給するとともに、蓄電し続けることで、ガンマ線バーストが発生した際に、わずか10秒程度で到来方向に回転させるための大容量電力を供給する世界初の電源システムを構築し、ガンマ線バーストの観測に向けて大きな課題となっていた電源問題を解決した。

今後、日立システムズは、今回ラ・パルマ島のガンマ線天文台に納入した電源システムについて保守業務を担当するほか、2020年にチリのパラナルで建設が予定されているガンマ線天文台向けにもこの電源システムを提案し、宇宙の始まりを解き明かすプロジェクトであるCTA計画に貢献していく予定。