地球の温暖化メカニズム解明に新たな視点

今世紀終盤までの地球の気温上昇量は、大気中に排出される温室効果ガスの量だけでなく、気候システムが温暖化を増幅するか抑制するかによっても決まる。


地球温暖化に伴う気温変化の指標である「平衡気候感度」には1.5~4.5℃、降水量変化の指標である「水循環感度」には1℃あたり2~3 %の幅がある。がこれまで相互の関係は不明瞭であった。さまざまな気候フィードバックのうちあるものは気温上昇を増幅し、あるものは抑制する。理論的に明らかなフィードバックもあるが、働きが複雑なために正確な値が分かっていないフィードバックもある。

中でも、温暖化時に雲がどう変化するかで決まる雲フィードバックには大きな不確実性があり、そのために平衡気候感度には3℃ものばらつきが存在するという。東京大学、筑波大学、国立環境研究所の共同研究チームは、温暖化時の雲の応答が2種類の感度を繋ぐという理論的仮説を全球気候モデルによる温暖化シミュレーションで検証した。結果、平衡気候感度が大きいと水循環感度が小さくなるという逆比例の関係を明らかにした。

下層雲が温暖化時に減少すると日射の反射が減少することで正の雲フィードバックをもたらし、平衡気候感度が大きくなる一方、大気から出てゆく余剰な赤外エネルギーも減少するために、大気のエネルギーバランスから降水量の増加が小さくなる――。新たに特定されたメカニズムに、衛星観測データを組み合わせて水循環感度を制約した結果、降水量の増加はCMIP5気候モデルによる直接推定値よりも3割小さくなったという

気候のエネルギーバランスで決まる気温と降水量の変化、即ち最も基本的な温暖化のメカニズムに新たな視点を提示し、今後の温暖化予測にとても重要な知見を提供する。今回の研究は文科省「統合的気候モデル高度化研究プログラム」の補助を受けていて、その成果はNature Climate Change誌に掲載された。