宇宙空間でエネルギーを運ぶ、水素イオンからヘリウムイオンへと

北欧やカナダ・イエローナイフを訪れ幸運に恵まれた人はもちろん、家から出ない人も映像を見たことがあるだろう。オーロラは、地球磁気圏(宇宙空間)とそこに分布している荷電粒子、太陽風や磁場が相互作用し、高エネルギーの電子やイオン等が地球の高層大気に降り込むことで発生する。


オーロラとなる高エネルギー荷電粒子は、地球磁気圏のなかで低エネルギーの粒子がエネルギーを得たものと考えられている。このときそれは、粒子同士の直接の相互作用ではなく、電磁相互作用によって起こる。大気圏外では物質の密度が低く、我々の身のまわりで起こる分子や原子同士の衝突よる熱や運動エネルギーの交換とは違い、めったに衝突しない粒子同士のエネルギー交換は電磁波が関係している。

それは船の航行によって発生する波が近くの船を揺さぶるようなもの。船同士はぶつかっていないが、波を介して他の船が揺さぶられる。水の波の役割を電磁波が担う。宇宙空間において、人工衛星に障害を与えるほどの高エネルギーをどのようにして荷電粒子が獲得するのか――。人工衛星による観測と新しいデータ解析手法によって、その過程の理解が進んでいるという。

北村成寿氏(東京大学)率いる国際研究チームは、'15年にNASAが打ち上げたMMS衛星編隊からのデータを解析し、粒子の密度が低い地球周辺の宇宙空間において、粒子から電磁波、電磁波から異なる種類の粒子へとエネルギーが輸送されている過程を検出することに成功した。

研究チームは、日本メーカーのデュアルーイオンエネルギー分析器など、MMSに搭載された観測器を用いて、水素イオンからヘリウムイオンへとエネルギーが運ばれる現象を捉えた。データを調べると、水素イオンの一部が特徴的な運動をしていて、電磁波にエネルギーを渡していることが分かった。一方、ヘリウムイオンは電磁波からエネルギーを受け取っている特徴的な運動をしていることが明らかとなった。

現象の検出は、従来の観測装置よりも20倍も時間分解能(0.15秒ごとにデータを取得)が高いセンサーで観測したおかげであり、さらに、研究メンバーが新たに開発したデータ解析手法の寄与もあったという。

「電磁波と高エネルギー電子の複雑な相互作用についての理解が進む道筋がついたと思います。人類の活動領域が地上だけでなく地球周辺の宇宙空間まで広がった現在、われわれを取り巻く環境を理解することは、今後、宇宙空間をさらに賢く利用する上でも大切なのです」と、装置製造を主導した齋藤氏が述べる。

JAXAのジオスペース探査衛星「あらせ」 も、高エネルギー電子の加速メカニズムや、磁気嵐の発達過程を明らかにしようと地球磁気圏を継続観測していて、今回の研究手法がそのデータ解析にも応用されることが期待される。この度の研究は一部にJSPS科研費の助成を受けていて、全体の成果は米科学誌「Science」に掲載された。