免震と制震のハイブリッド構造の実用化に目途

東京都市大学工学部 建築学科 西村 功教授と東急建設技術研究所の研究チームは、油圧ダンパーと積層ゴム支承を組み合わせた新型ハイブリッド制震構造について、実在建物の約4分の1スケールモデルを用いた振動台公開実験を行い、従来のパッシブ型制震構造を大きく上回る性能があることを実証した。

西村教授の発明による「部分免震構造」は、これまで小型振動台実験によってその減衰性能が学術的に評価されていたが、今回、東急建設技術研究所の大型振動台において、過去の代表的な被害地震3種類の地震波加振実験を行った結果、実在建物の合理的な構造シス
テムとして、実用化できる性能が確認された。この実験的研究は、東急グループに属する東京都市大学と東急建設の産学連携包括契約(2017年4月締結)に基づく共同研究の一課題。

この産学連携スキームでは、東京都市大学が有する研究シーズを東急建設の事業ニーズにマッチングさせることで、大学の研究成果を社会実装する多様な取組みを推進している。
パッシブ型の制震構造は、1980年代後半から研究開発が活発に行われ、この約30年間に様々な減衰装置が開発された。特に、油圧ダンパーは、中小地震から大地震に至るまで、安定した制震性能が期待され、多くの建物に採用されている。

これまで、建築振動工学の分野では、これらの減衰装置を建物各層に設置することで、比較的容易に減衰性能を発揮できると考えられてきた。しかし、構造モニタリング技術とインターネットの発達により、多くの実在建物で地震観測データが得られるようになると、従来の層間型のパッシブ制震構造では、設計で想定する様な減衰性能が発揮されていない事実が明らかとなってきた。

西村研究室では、その原因究明にあたり、独自の振動理論を構築することによって、建築架構の減衰率と振動数は、個別に独立して変化するのではなく、一定の関係を有しながら変化することを明らかにした。この結果、高い減衰性能を発揮して地震時の構造的な損傷を低減するためには、大きな振動数の変化が必要であることも判明し、この構造形式を「部分免震構造」として特許登録した。

今回の実験的研究では、積層ゴム支承と減衰装置のハイブリッド構造によって、比較的簡便に大きな振動数の変化と高い減衰性能を実現できることを検証している。

現在、西村研究室では、積層ゴムメーカー、建設会社、構造設計事務所、研究機関など、複数の企業と団体からなる研究会「淡広会(たんこうかい)」を定期的に開催し、地震発生時の防災・減災を目指した情報共有と研究開発の課題共有を図っている。

西村研究室と東急建設は、この研究会の構成員として共同研究の成果を活用し、2020年度を目途に建物へ適用し、新型ハイブリッド制震構造の社会実装に向けて取り組む予定。