動物の社交性解明に迫る、ハエの脳内メカニズムが明らかに

昆虫からから哺乳類まで、多くの動物は社会的・性的行動を調節するシグナル伝達物質「フェロモン」を同種とのコミュニケーションに使っている。が従来、フェロモンに対する神経応答と行動を同時にリアルタイムで追跡するシステムがなく、その創出メカニズムはほとんど分かっていなかった。

コミュニケーション創出について、これまでの研究では、生物学の色々な分野でモデル生物として用いられているハエの頭部を計測用プレートなどに固定して、神経活動と仮想空間での行動を記録する方法がとられていたが、これではフェロモンによって調節される社会的および性的行動を観察できず、時空間的に変動するフェロモンに対する神経活動を捉えることも不可能だったという。

理化学研究所の知覚神経回路機構研究チームは、発光バイオセンサー(特定物質と結合すると光る生物由来の物質)を利用して、動物の神経活動と行動の同時計測システムを開発し、動物間コミュニケーションの新戦略を発見した。成果は、より自然に近い環境下で自由行動する動物の神経活動をリアルタイムで観察可能にしたものだという。

遺伝学的解析に優れた特質をもつキイロショウジョウバエでは、求愛や闘争などさまざまな社会的行動がオスのフェロモン「cVA」により調節されているが、それがいつどこで放出され、どのように受容されているかはほぼ不明だった。そこで同研究チームは、遺伝子操作により、cVAに特異的に応答する神経細胞に発光バイオセンサー「エクオリン」を発現させ、発光するハエが仲間とアリーナ内を自由に動き回ってコミュニケーションをとる様子を赤外線カメラで追跡した。

と同時に、発光するハエの神経活動に応じて生じた光子を光電子倍増管で検出した。結果、オスがマーキング行動を通して腹部先端から分泌物をアリーナ壁面に放出し、その分泌物がcVA応答神経細胞を活性化させることが分かった。この活性化は、ハエが分泌物の周辺にいるときにのみ観察された。同種のオスが近くにいても神経活動に変化は見られなかった。

さらにこの分泌物は、雌雄双方を惹きつけ、求愛行動の場を作り出すことを見いだした。求愛行動中にもかかわらず、オスもメスもマーキング領域に強く惹きつけられ、長く滞在することが明らかとなった。一方、メスの分泌物は雌雄双方の行動に影響を与えなかった。これは、オスの分泌物が性アイデンティティを持ち、同種のハエがそれを認識・区別して行動していることを示しているという。

cVAが消化管由来の分泌物に含まれ、マーキング行動により特定のタイミングで積極的に放出され、社会的コミュニケーションに利用されていることを初めて明らかにした。同研究チームの成果は、謎に包まれた動物のコミュニケーション戦略のさらなる発見とその神経基盤の解明に貢献すると期待でき、米国の科学雑誌『Current Biology』オンライン版に掲載された。