産業・医療分野でナノ空間を自在にする、多孔性ソフトマテリアル誕生

我ら市民生活の身近には「多孔性材料」がある。空気や水を浄化し、下剤でも使われる活性炭がその代表であり、工業的にはガスの精製、溶液の脱色、触媒などとしても用いられる――近年、金属イオンと有機分子からなる多孔性金属錯体(PCP/MOF)が非常に注目されている。

PCP/MOFは、アイセムス拠点長の北川進教授が'97年に開発・実証した新しい多孔性材料であり、有機分子を金属イオンで連結したジャングルジムみたいな構造をしている。同構造の隙間にある「ナノ空間」は、サイズ、形、化学的性質を合成化学によって設計可能で、様々な分子を閉じ込めたり分離したり反応させたりできる。ゆえに幅広い分野での用途が期待されている。が、硬い。

自在加工が難しい。PCP/MOFの結晶性は、ナノ空間に不可欠だと信じられてきたという。古川修平アイセムス准教授、 日本学術振興会 外国人特別研究員らの研究グループは、多孔性材料を合成する新しい手法(ナノ空間重合法)を開発し、微小なコロイド(膠質)粒子や、ゼリーのように柔らかいゲル状の多孔性材料を開発することに成功した。

古川研究室では'16年、上記ジャングルジム構造体をつくることから、「ナノ空間」の最小構成単位である分子=金属錯体多面体(MOP)を切り出し、それを自由に重合する(つなげる)発想に転換して、24個のロジウムイオンを24個の有機分子で連結して得た金属錯体立方八面体が、PCP/MOFのように高温加熱、高真空条件にても安定にナノ空間を存在させうることを実証。

その反応条件を変化させて作成した透明なゲルは、コロイドネットワークを形成していて、その大きな空隙に溶媒分子が閉じ込められていることを明らかにし、超分子重合過程の制御によって、ゲルのような柔らかい材料(ソフトマテリアル)が合成可能であることを初めて示した。

そして、このロジウム立方八面体錯体(RhMOP)をナノ空間の構成単位かつ合成基本単位として用いた。今回の研究では、金属イオンと有機分子間の配位結合に注目し、ビスイミダゾール分子で超分子重合反応を行った。結果、RhMOPに存在するロジウムイオンのうち、頂点の12個のロジウムイオンとビスイミダゾール分子が反応し、超分子重合が進行することがわかったという。

電子顕微鏡やX線回折測定にて、結晶性はなく、微小なコロイド粒子を生成していることが確認された。重合反応の超分子化学的な解析を行い、そのコロイド粒子のサイズを数10~数100nmの範囲で制御することも可能になった。これまで成形が困難だったナノ空間材料を自在に設計できる。多孔性ソフトマテリアルは、その柔らかさを利用した新しい分離膜材料、薬剤運搬、電子デバイスとの融合等さまざまな応用への展開が期待される。

同研究グループの成果は、英国学術誌「Nature Communications」オンライン版に掲載された。