血圧を調節するホルモン受容体の結晶構造が原子レベルで明らかに
理由は食生活にあるのか、先進国にしては高すぎる喫煙率にあるのか、はたまた祭りと宴会が大好きな割にはアルコール分解酵素を持っていても1種類という体質にあるのかは定かではないにしても、実際、厚生労働省統計「平成26年患者調査の概況」よると、高血圧性疾患は男女あわせて約1,000万人――。その年間医療費は約1兆9,000億円にものぼる。
同年度同疾患により約6,900名が亡くなり、健康長寿社会の実現にとても重要だと考えられる。血圧がどのような分子メカニズムで調節されているのかを分子レベルで解明する研究を行ってきたという。京都大学 医学研究科のグループは、ペプチドホルモン(アンジオテンシン)が結合したアンジオテンシンⅡ受容体(ATR)について、その立体構造を世界に先駆けて明らかにした。
ATRは、血圧調節で重要な役割を担うGタンパク質共役受容体であり、血圧を上げる1型受容体(AT1R)と血圧を下げる2型受容体(AT2R)とが相互に関係しつつ働く――両者の協調を制御する生理活性ペプチドがアンジオテンシンII(AngII)であり、これがATRに結合することで⾎管の緊張が調節され、⾎圧が調節される。
AngIIは⾼⾎圧症の標的となっていて、アンジオテンシン受容体拮抗薬が広くその治療薬として使⽤されている。これまでAT1Rの不活性型の構造のみが明らかにされていたという。同研究グループは、AT2RにAngIIの類似体(s-AngII)が結合した活性型の構造決定に成功。s-AngIIが結合したAT2Rの構造を、抗体フラグメントとの複合体を形成させることで結晶化にも成功し、その⽴体構造を原⼦レベルで解明した。
受容体の⽴体構造を特異的に認識する抗体の作製では、JST ERATO「岩⽥ヒト膜受容体プロジェクト」での技術を利⽤。AT2Rの構造を固定する、結晶化を促進させる、結合を助ける等、s-AngIIが特別な機能を持つことも分かった。得られた結晶は⼤型放射光施設SPring-8でX線回折実験およびデータ収集を⾏ったという。
血圧の調節がどのように行われているかを原子レベルで明らかにすることで、高血圧症に対する理解をより深め、より新しい治療法開発への道を開くと期待される。さらに、ATRを標的とした疾患に対して、その構造情報を基にリード化合物の探索、いわゆる「構造に基づく創薬」(SBDD)を可能にするものと期待される。今回の研究成果は、国際学術誌「Nature Structural & Molecular Biology」オンライン版に掲載された。