背を伸ばして生き延びる「浮きイネ」の仕組みと起源を解明

東北大学 生命科学研究科 黒羽 剛 助教、名古屋大学生物機能開発利用研究センター 芦苅基行 教授らの共同研究グループは、洪水に適応し、背丈を急激に伸長させて生き延びることができる「浮きイネ」を制御する鍵遺伝子を発見し、その分子機構と起源を明らかにした。

植物の生存に水は必須だが、水没してしまうほどの大量の水は生存を脅かす。そんな中、バングラデシュをはじめとしたアジアの洪水地帯で栽培される「浮きイネ」は、ユニークな進化を遂げてきた。

浮きイネは、完全に水没してしまうような洪水が長期間続いても、急激に草丈(イネの身長)を伸ばして水面から葉を出し生き延びることができる。この伸長能力は非常に高く、時には草丈が数メートルに至るほどだという。しかし、その詳細な仕組みや起源については明らかになっていなかった。

研究グループでは、ゲノムワイド関連解析、連鎖解析と呼ばれる遺伝学的手法を用いることで、浮きイネの水没に応答した草丈の伸長に関わる鍵遺伝子としてSD1(SEMIDWARF1)遺伝子を発見した。イネは水没すると、エチレンと呼ばれるガス状の植物ホルモンを発生し体内に蓄積。続いて、OsEIL1aというタンパク質が蓄積し、これがSD1 遺伝子に働掛けてSD1タンパク質を多量に生産させることが分かった。

SD1タンパク質は、植物の草丈を伸長させる機能を持つ植物ホルモンであるジベレリンを合成する酵素タンパク質。また、一般的なイネもSD1タンパク質を保持しているが、浮きイネのSD1タンパク質の酵素活性は、一般的なイネのものよりも圧倒的に高いことも判明
した。

研究による浮きイネの洪水への適応メカニズムの解明を通して、イネは同じ機能を持つ遺伝子であっても、その働き方を変えることにより、様々な環境への適応能力を獲得し育種に利用されてきたことが分かった。また、これまで不明であった浮きイネの起源が初めて明らかにされた。

近年、世界各地において降水量の減少による乾燥・砂漠化や、多雨による大洪水といった異常気象が相次いで報告されている。今回明らかになった成果を応用することで、高収量の浮きイネ品種の開発や、様々な環境変化に応じてイネの草丈を調整する技術の確立が期待されるという。