量子揺らぎを残して機械学習の成績アップ

コンピュータで脳の神経細胞網を模して並列処理を行う。ニューラルネットワークは、数学モデルであり、複数条件・要素を勘案して答えを出す人間の思考回路に近づいたと昨今話題のディープラーニング(深層学習)をはじめとした機械学習、人工知能(AI)の基礎である。

画像などを教師データとして、犬と猫の識別ができるようになった。機械学習ニューラルネットワークは、注目すべき部分データを強調したり、組み合わせたりして、与えられた課題をクリアする、その最善の方法を、最適化問題を通して探し出している。一方で多岐にわたる最適化問題を解く方法として、原子や分子など非常に小さいスケールのものを支配する量子力学の原理に基づく量子アニーリング(焼き鈍し法)が注目されている。

エネルギーの一時的変化、量子揺らぎを用いた過程において、様々な可能性の重ね合わせから解を探索することで、最適化問題を効率的に解けると期待されている。量子アニーリングは最近、カナダのD-Wave System社がその原理に基づく世界初の商用量子コンピュータを販売していることでも、さらに注目を浴びているという。

東北大学とデンソーの共同研究チームは、機械学習に、量子アニーリングを適用することにより、これまでの手法に比べて学習の効果が高まる方法を発見した。最適化問題を解くための効果的な予習によって、試験の成績が向上するように工夫する際、量子アニーリングを用いた今回の手法では、予習の段階で提示されなかった未知のデータに対しても、うまく課題をこなすことができるようになった。

本番試験での成績に相当する「汎化性能」の向上が確かに認められたという。同研究チームは、様々な可能性を探索する量子揺らぎの性質が、この性能向上の鍵を握っていることを突き止めた――。より効果的に汎化性能を上げるためには、従来手法のように量子アニーリングの量子揺らぎを完全に切ってしまわないこと、即ちある程度の強度のままそれを残してアニーリングを終えることが重要だと確認した。

量子揺らぎを利用した探索手法では、未知のデータであっても課題にうまく対応するようなデータの利用方法を探し出していると予想している。多様な分野に対して広がりを見せているディープラーニングなど、大規模なデータを処理するシステムへ、今回発見した事実を活用するには、大量メモリを搭載し高速並列処理が可能なスーパーコンピュータ、もしくは量子コンピュータを利用する必要がある。

一方で、量子力学を利用した計算技術がもたらす効果を明らかにすることにより、AIをはじめとしたコンピュータの基盤技術の性能向上、その利用価値を高める場面において、様々な量子力学を活用した技術が取り入れられるようになり、これらが世界を変えていくことになるだろうという。研究成果は、科学誌「Scientific Reports」電子版に掲載された。