ペーパーレスの時代といわれている今、紙を見直す動きもある。マイクロプラスチックによる海洋汚染を防ぐためのPETボトルやストロー、使い捨て食器やレジ袋の材料変更がそうだし、紙を用いた分析・検査デバイスとなるペーパーマイクロチップは、その技術および可能性がとても有望視されている。
他方、農業分野においても、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」など先端技術の採用が進み始めている。
近年、途上国での穀物需要の増⼤、異常気象による作柄悪化、為替変動の影響などにより、飼料価格が⾼騰している。乳⽜の妊娠サイクルにずれが⽣じると食餌量の増加、乳量の低下につながるため、酪農家の経営安定には繁殖成績の安定が必要不可⽋になっている。また、妊娠検査は専門機関への委託が一般的で、高精度な反面、判定に時間と高い費用がかかり、酪農家への負担の⼤きさが問題になっているという。
⽇本ユニシスと北海道⼤学ロバスト農林⽔産⼯学国際連携研究教育拠点は、両者が保有する「画像解析技術」と「ペーパーマイクロチップ技術」を活⽤し、酪農現場における乳⽜の周産期(発情、妊娠)を⼿軽に、早く、⾼精度に分析する共同研究を開始した。
⽜の周産期を把握するための⼿段である「プロゲステロン」(黄体ホルモン。子宮内膜を分泌相に導き、妊娠後それを継続する)を利⽤した妊娠検査を行う専⾨機関に依頼せずとも、酪農現場でマイクロチップとスマホを用いて検査結果を「見える化」。このしくみを平常時から周産期のチェックに利⽤することで確度の⾼い妊娠を⽀援。ひいては飼料抑制に貢献し、酪農家の経営安定をめざすという。
ペーパーマイクロデバイスは、ろ紙に流路パターンが⽩抜きになるよう油性インクで印刷し、検出試薬を保持させた検査チップ――。現在主流のガラスやシリコンを基材にした検査チップにおける材料調達・加⼯・廃棄処理に要する⼿間やコストの⼤幅な改善が期待できる。