ALSの根治治療につながる研究成果が明らかに

全身の筋肉が萎縮して力を失い、発症後5年以内に人工呼吸器を必要とする。筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、対処療法の開発が少しずつ進んでいるものの、根治的な治療法がない――。明日、6月21日は「世界ALSデー」だ。

病の進行とともに全身の運動ニューロン(神経細胞)が消失する。原因は長らく不明だったが、細胞核内にあるべきTDP-43:RNA(リボ核酸)結合タンパク質が核から消えて細胞質で異常な凝集体を形成していること、同凝集体によって神経細胞死に至る様々な有害事象の起こることが近年に判明。この異常凝集体の除去が容易ではないけれどALSの根治治療に直結する、可能性が注目されていたという。

京都大学、滋賀医科大学、慶應義塾大学の共同研究グループは、上記TDP-43の異常凝集体を除去する治療抗体の開発に成功。細胞内で蓄積する異常な原因タンパク質のみに結合した後にプロテアソームやオートファジーで分解される「自己分解型細胞内抗体」を用いた画期的なアプローチで、難病ALSの根治治療の道を開いた。

同抗体は、細胞内でALS治療抗体を作らせるシステムであり、TDP-43の異常構造のみと結合して分解を進め、正常に働いているTDP-43とは反応しない。プロテアソーム(酵素複合体)とオートファジー(自食作用)経路での分解を促す2つのシグナルを有していて、細胞内で作られた後、速やかに分解される。培養細胞におけるTDP-43の異常凝集体を減少させ、細胞死を著明に抑制した。

さらにマウス胎仔脳におけるTDP-43異常凝集体を有意に減少させ、脳の初期発生に影響を与えなかった。自己分解型細胞内抗体は、結合する凝集体が存在しない細胞では速やかに分解されてしまうため抗体蓄積による有害事象の懸念も少なく、分子標的治療として極めて有望だという。

研究結果は、国際学術誌「Scientific Reports」電子版に掲載された。