奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 物質創成科学領域の太田淳教授らの研究グループと東京大学大学院 情報理工学系研究科 石川正俊教授らの研究グループは共同で、画像処理装置の高速ビジョンと近赤外光を用いることで、ユーザーが1人で眼底網膜像を撮影する新しい小型眼底カメラシステムの開発に成功した。
眼底網膜は身体の外から血管の様子を詳細に観察できる唯一の場所。毛細血管をも観察することで、眼の様々な疾患だけでなく、高血圧、動脈硬化、糖尿病などの生活習慣病の状態を観察できる。
眼底網膜像を得るためには眼科病院などで医師などの専門家の操作のもと撮像してもらう必要がある。眼底を撮像するためには、瞳孔と眼底の光軸を正確に合わせ、暗い眼球内を強いフラッシュ光で隈なく照らす必要があった。眼球が高速に細かく動くことやまぶしさのため、患者が自分で撮像することは困難だった。
今回開発したシステムでは、高速微動する眼球を高速ビジョンシステムによりトラッキングし、さらにまぶしくない近赤外光を用いることで眼底に十分な強度の光を到達させることができるため、眼に負担をかけることなく眼底像を得られる。
高速トラッキング技術は、プロジェクトの分担グループである東北大学大学院情報科学研究科鏡慎吾准教授が開発したシステムをもとにしている。また、近赤外光照明のため得られる画像は白黒だが、ナノルクスの開発した3波長近赤外光からカラー画像を再現する技術を用いることで、近赤外光でもカラーの眼底網膜像を得られるという。
眼底網膜像を自宅で気軽に1人で撮影できれば、日々の生活習慣病の観察に用いることができ、パーソナルヘルスケアへの応用が期待できる。また眼底網膜像をインターネット経由で医師に送ることで遠隔診断も可能になる。さらに小型軽量な特徴を生かして、眼病が多いと言われている開発途上国でのその場診断への展開も図れる。