「南の海」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。松田聖子さんの『青い珊瑚礁』を脳内にリフレインさせる日本人は、いわゆる中高年である。もしかしたら、ブルック・シールズさん主演の青春映画とその頃の自分を思い起こす人がいるかもしれない。てなことはさておき――。
熱帯魚をはじめとする多彩な生物の棲み処であり遊び場であり、群れを成しカラフルな礁となれば人の目も楽しませてくれる。珊瑚はサンゴ虫が作る石灰質(炭酸カルシウム)の骨組み。それが集まってテーブル珊瑚となったり、環礁となったり、ただ美しいだけでなく、生きていることにとても意味がある。
高い生物多様性を誇り、観光や漁業資源、天然の防波堤としても人々の暮らしを支えている珊瑚礁は、造礁サンゴによるものだが、その骨格形成と成長メカニズムには不明な点が多い。光合成によるエネルギー供給がサンゴの成長に重要だと報告されている、共生藻については、それ以外の具体的な役割が明らかにされていなかったという。
岡山大学、琉球大学、東京大学、ブルネイ大学、産総研、ミュンスター大学の研究グループは、幼生が定着、変態した直後の稚サンゴ(初期ポリプ)を用いて、共生藻を持つサンゴと持たないサンゴを作成し、海水温などを変化させた水槽で飼育することに成功。サンゴが共生藻のほとんどを失ってしまう「白化」が、いかに珊瑚礁の成長を阻害するものであるかを示した。
共生サンゴは非共生サンゴに比べ、骨格の成長量が大きいことが昔から知られていたという。同グループは、実験期間中に成長したサンゴ骨格の化学分析を行うことで、この違いがサンゴ体内のpH上昇に起因していることを発見した。
今回の研究はキヤノン財団と日本学術振興会の支援を受けて実施。共生藻がかかわる謎の解明に大きく寄与する成果は、アメリカ地球化学会の学術誌「Geochimica et Cosmochimica Acta」に掲載された。