京都大学は、玉野井冬彦 高等研究院物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)特定教授が、鶏卵の中にヒトの患者由来の卵巣がんを再現することに成功したと発表した。
がんは、同じ種類のがんでも個々の患者やそのステージによってその性質に違いがある。そのため、十分な効果を期待するためには、それぞれの患者に適した抗がん剤を個別に選択する必要があると考えられるが、現在のがん治療では、同じ種類のがんに対しては同様な抗がん剤が使われることが一般的だ。
今回の研究では、鶏の有精卵の殻に穴を開け、胚を取り巻く「漿尿膜」上に細かく砕いたヒト卵巣がんを乗せると、3~4日後には同じ特徴を保持したがんが鶏卵内に再現された。マウスでのがんの再現には数週間を要することを考えると、大きな短期化だという。この鶏卵モデルを使えば、実際の患者のがんを再現し、そのがんに最適な薬を探すことが1週間ほどで安価でできるようになる。
また、研究グループは、この鶏卵モデルに自らが開発した多孔性(無数の細孔を持つ)ナノ粒子であるB-PMOを使って抗がん剤を投与する実験を実施した。その結果、B-PMOががんにだけ選択的に集まって蓄積したために、周囲の臓器に影響を与えず、抗がん剤の副作用を最小限に抑えるために役立ったということが判明したという。
研究では、卵巣がん鶏卵モデルとナノ粒子B-PMOの2つの有効性が確認された。鶏卵モデルは、さらなる研究により個別医療の実現に役立つ可能性が期待される。また、ナノ粒子B-PMOについては、今後、副作用の少ない抗がん剤治療に役立つことや、その高いがん蓄積能のメカニズムを検証することで、より高いがん蓄積能を持つ粒子の開発に役立つことが期待されるという。
研究成果は、英国の科学誌『Scientific Reports』電子版に掲載された。