あらゆる生物の細胞に存在する物質RNA(リボ核酸)は、およそ誰もが一度は耳にしたことがあるはずだ。生物の遺伝子情報を保存・複製する二重らせん構造のDNA(デオキシリボ核酸)に対して、それは一本鎖の不安定な構造で、ウィルスの遺伝子として働く。
細胞質に移動してタンパク質に翻訳されるまでにさまざまな修飾を受ける、RNAについて、1細胞RNA-seq法により一つの細胞の中に存在するRNAを網羅的に計数可能となり、細胞ごとの遺伝子発現を詳細に理解できるようになった――が従来、1細胞から核RNAと細胞質RNAを分離して網羅的に遺伝子発現を解析する術はなかった。
そのうえ、1細胞に含まれるRNA量が10ピコグラム(ピコ:1/1兆)程度であることも、両者を分離解析する技術的障壁であったという。理研の研究チーム、東京大学、京都大学らの共同研究グループは、一つの細胞から核RNAと細胞質RNAを分画して、それぞれの遺伝子発現を解析できるマイクロ流体技術を基盤とする「1細胞RNA分画解読法(SINC-seq法)」を開発した。(紹介動画:YouTube)
マイクロ流路における電場と流れを制御して、1細胞から核RNAと細胞質RNAを分離して並列に解読解析する上記SINC-seq法を用いて一つの細胞内のRNAの局在や遺伝子発現の相関を解析できることを実証。さらに、これらが細胞周期やRNAスプライシング(ゲノム上の遺伝子をメッセンジャーRNAに転写する過程の一つ)などの生命機能と密接に関わっていることを示したという。
遺伝子発現制御の理解を通じて細胞生物学の研究を加速し、将来的には遺伝子治療や創薬、微生物産業などへの応用展開が期待できる。今回の研究は、ImPACTプログラムの支援、またその一部は日本学術振興会の支援を受けて行われたものであり、成果は英国の科学誌「Genome Biology」電子版に掲載された。