脳内でのリプレイに異常を発見! 記憶障害メカニズムの解明に光り

脳の海馬は、空間の記憶や「いつどこで何が起こった」といったエピソード記憶など、さまざまな種類の記憶の形成や保存に関与している。空間記憶では、海馬に存在する「場所細胞」の活動が重要な役割を果たす。

たとえばマウスが空間を探索していると、各所で異なる場所細胞が次々に活動する。その後、マウスが休息をとる間に、探索中に活動したそれらの活動が同じ順番で、かつ時間的に圧縮されて繰り返し再生され、空間記憶が固定される――現象は「リプレイ」と呼ばれ、海馬の脳波のうちの鋭波(SPW-Rs)に同期して起こることが知られている。

そして、人為的に鋭波を乱すと記憶障害を起こすことがマウスで実証されている。が、記憶をはじめとする認知機能に発達段階で遅れを生じる、知的障害において、鋭波が記憶の形成や保存に与える影響については不明だったという。理研CBSの国際共同研究チームは、知的障害モデルマウスにみられる記憶障害には、海馬における「リプレイ現象」の異常が関与していることを発見した。

知的障害をもつ人では、電位依存性ナトリウムチャネルNav1.2をコードするSCN2A遺伝子に高頻度で新生変異が同定されているという。同チームは、このたび作製したScn2a遺伝子ノックアウトマウス(Scn2aKOマウス)が空間記憶の障害を示したため、知的障害モデルマウスとして、その海馬を詳しく調べた。

結果、Scn2aKOマウスの探索行動中の場所細胞の活動には異常が認められなかったが、鋭波に同期したリプレイに異常が認められることが分かった。このことから、海馬リプレイの異常が記憶障害の発症に関与している可能性が示されたという。

今回の研究成果は、米科学雑誌『Nature Neuroscience』に先立ち、同誌オンライン版に掲載――。知的障害の患者の一部で観察される、記憶障害を引き起こす脳メカニズムの理解への貢献が期待できるとのことだ。