個人の働く意欲を上げ下げする、要因を推定し組織力を高める」

国を挙げて生産性向上に取り組む日本では、様々な職場で「働き方改革」が叫ばれている。だがそれは多くの場合、"器や仕組みの変革"をめざすものであって、組織力の源泉となる"人"に焦点が当たっていない。たとえAIが千人力であっても、ひとりの社員に及ばないことがある。

少子高齢化時代をゆく企業では、労働力の確保が必須となる。厚生労働省の'16年度調査によると、新規学卒就職者の3年以内の離職率は高卒40.8%、大卒32.2%。調査開始以来、改善の兆しは見えていない。労働市場では、長期的に従業員の育成を行い、その組織特有の能力を蓄積すること(経験曲線効果)を重視してきた。だが、雇用の流動性が高くなれば――

上記効果を期待できず、収益性の下がるおそれもある。企業は従業員の離職にともない新たな人材確保と教育の費用が嵩むなど、コスト面の大きなデメリットも指摘されているという。NTTデータ経営研究所は、ワーク・エンゲイジメント(仕事への熱意・集中・活力)向上要因を評価するプロトコルの実証実験に取り組み、働く意欲を上下する一人ひとりの要因推定に成功した。

35名それぞれに2週間行った実験の結果、ワーク・エンゲイジメントは個人の中でも経時的に変化しうるものであり、そうした変化は「自分が成長の機会を与えられているか(上司に評価されているか)」(項目参照:SAJIP)といった実感や、「職場の温湿度環境」といった外部要因によることが示された。

約半数の人が「上司に評価されている」と感じたときに働く意欲が向上していたが、その変化要因については大きな個人差のあることが分かった。今回の評価プロトコルを活かすことにより、従業員のワーク・エンゲイジメント向上要因を個人レベルで把握し、個々に有効な介入が可能となる――。この取り組みにより、企業の生産性向上だけでなく、離職の防止や優秀な人材の確保も期待できるという。