スピン流スイッチの動作原理を発見

科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 ERATO齊藤スピン量子整流プロジェクトにおいて、Zhiyong Qiu助教(東北大学 金属材料研究所)と齊藤 英治教授(東北大学 材料科学高等研究所/金属材料研究所)らは、スピン流の流れやすさを制御するスピン流スイッチの原理を発見・実証した。

スピントロニクスは電子の電荷だけではなく、スピンも利用した次世代の情報処理技術。スピントロニクスを利用したデバイスは、高速かつ不揮発なメモリーや超高密度なハードディスクとして身近になりつつある。

しかし、スピントロニクスにおいてはスピン流の流れやすさを制御するスピン流スイッチを実現する手段が確立されておらず、その動作原理の発見・実証が望まれていたという。
今回の研究では、反強磁性体の相転移での振る舞いを利用して、スピン流スイッチが実現できることを実証。スピン流の具体的な素子には、磁性絶縁体であるイットリウム鉄ガーネット(YIG)とスピン流検出用の白金(Pt)の間に、反強磁性体である酸化クロム(Cr203)を挟んだ構造を用いた。

YIGからPtに向けてスピン流を注入すると、Cr203でのスピン流の流れやすさに応じた起電力がPtに生じる。今回の研究では、この起電力測定を通じて、反強磁性相転移により、Cr203がスピン流に対する導体から絶縁体に変わることを見いだした。

さらに、この相転移の近くで磁場を加えることによって、この相転移前後のスピン流の流れやすさを500%もの大きさで変化させられることを示した。齊藤教授らは、電流における類似の現象から、本現象を「巨大スピン磁気抵抗効果」と名付けた。

これは、外部磁場によってスピン流の流れやすさを制御できる、すなわちスピン流のスイッチを実現する原理を発見したことになる。これまでスピントロニクスに欠けていたスピン流スイッチを見いだしたものとして、様々なスピントロニクスデバイスの展開に貢献するものと期待される。

この研究成果は、英国科学誌『Nature Materials』電子版で公開された。