実験は5Gを活用して、マリンスポーツなど観客から離れた位置で競技する選手の動きを迫力ある映像で観客に届けるパブリックビューイングサービスを想定し、実施した。
具体的には、海上に停泊させた小型船舶に5G移動局を設置し、同船舶上に設置したカメラやドローンに搭載したカメラから撮影したウインドサーフィン大会の競技映像を、陸上の5G基地局に向けて無線伝送しパブリックビューイング会場で放映した。
小型船舶上においてHEVCエンコードした映像素材をMMT送信装置を用いて符号化、IPパケット化して、舶上の5G移動局から海岸のホテル屋上に設置した5G基地局に向けて上りリンクを用いて無線伝送した。船舶は、ウインドサーフィン競技のコースに合わせて基地局から300メートルから1キロメートルの範囲の海上に停泊し、船舶のデッキ上に設置したカメラ、ドローン搭載カメラで撮影した4種の2K映像を集約して4K映像を生成。映像伝送の設定ビットレートは誤り訂正符号を含み80Mbpsとした。
伝送された映像は、ホテル内のオペレーションルームに設置したHEVCデコーダとMMT受信装置を介して映像スイッチャーで放映する素材をスイッチングし、パブリックビューイング会場に配置された大型ビジョンにてリアルタイムに放映した。
本実験における映像伝送では、4つの映像を集約した4K映像の伝送に、上りリンクで80Mbps程度のデータレートが必要となるため、4G(LTE)による伝送は困難だった。一方、5Gは4Gに比べて高い周波数帯を用いるため、長距離伝送には「ビームフォーミング」が必要となり、さらに移動通信をサポートする場合、ビーム追従機能も必須となる。陸上では人や自動車は基地局に対し主に水平方向に動くが、海上の船舶は波の影響により基地局に対し垂直方向に大きく揺れたり、停泊するために転回するなど、陸上における無線伝送環境とは大きく異なる。
今回は、基地局と移動局の双方に実装したビームフォーミング技術を前提に、2段階のビームサーチによる高効率かつ高精度の3Dビーム追従技術を駆使することで、波による揺動などの影響を受ける海上でも安定した無線伝送を可能とし、最大1.1Gbpsの上りリンク伝送を実現。ウインドサーフィン選手を多角的に捉えた迫力ある映像をパブリックビューイング会場でリアルタイムに放映することに成功したという。