失明予防法開発の第一歩、強度近視の失明メカニズムに関与する遺伝子変異を発見

山城健児 医学研究科非常勤講師、辻川明孝 同教授らと、東京医科歯科大学、シンガポール国立眼科センターの研究グループは、8913人の日本人データと331人のアジア人データを解析することで、黄斑症の発症に「CCDC102B」という遺伝子・分子が強く関与していることを発見した。

近年、世界で近視が急増している。近視だけが原因となって失明することはほとんどないが、近視の程度が強い「強度近視」では黄斑症という合併症が生じて失明することがある。日本では失明(WHO基準の矯正視力0.05未満)の原因の1位は強度近視。最近では日本人の10%以上が強度近視となっており、強度近視による失明が今後の大きな社会問題となりそうだという。

今回のデータでは強度近視眼の約40%が黄斑症を発症し始めており、約6%は治療をしても10年以内に失明すると考えられる。長期的にはさらに失明する人が増えることが予想される。しかし、これまで強度近視から黄斑症が発症する機序はあまり解明されていなか
ったため、強度近視の人の中で誰が黄斑症を発症して、誰が失明するのかを予測することは難しかった。また、黄斑症は治療をしても萎縮性変化が進行することが多いために黄斑症による失明の予防はほぼ不可能だとされてきた。

最近、近視や強度近視の発症に関わる遺伝子や分子が数多く発見され、近視の発症予測が可能になりつつあるが、強度近視から黄斑症を発症して失明する段階についてはあまり研究が行われてこなかった。

今回、研究グループは、CCDC102Bが黄斑症の発症に強く関与していることを発見した。この研究により、遺伝子検査で強度近視眼における失明予測が可能になりそうだという。さらに、このCCDC102Bは近視・強度近視が発症する段階には無関係であることも分かった。これにより、強度近視が発症するまでの段階に関わる背景因子と、その後に黄斑症が発症する段階に関わる背景因子は異なっており、もし強度近視になっても、黄斑症の発症や失明は予防できる可能性があることも判明した。

今後、CCDC102B がどのように黄斑症発症に関わっているのかを明らかにすることで、強度近視眼の失明予防を目指す考え。研究成果は、国際学術誌『Nature Communications』電子版で公開された。