人は幸せなときに目標を素早く見つけ、速く見つけられるとき――

人は幸福度が高い時に創造力を増す。多くの事や人と関われて社会性も高まることが心理学研究で広く支持されている。が、人間の基本的機能に「そのときの気分が影響している」か否かは不明。

雑踏のなかで友や子を捜したり、店で欲しい物を見つけたりする視覚探索は、人の基本的で重要な機能の一つ。ここにその時の幸福感が影響するのかを解明するために、音楽や映像、報酬などによって幸福度を変化させ――実験室で行われてきた測定および研究の結果、幸福度の視覚機能への影響では支持と不支持が混在し、異なる気分の想起方法も議論になっていたという。

NICT英アストン大学は共同で、日常生活の中で刻々と変化する人の幸福度が、障害物の中のターゲットを探す速さに現れることをスマホアプリを使って実験的に明らかにした。脳情報通信融合研究センターのチームが独自開発したアプリによって、日常の自然な幸福度の変化を記録するとともに、心理学で広く知られている視覚探索課題を遂行し計測することで実現したという。

今回の実験参加者は33名。ふだん通りの生活の中で毎朝・昼・晩、2週間にわたり5分程度/回、障害物中にターゲットを見つけるなどの課題にそれぞれが取り組んだ。結果、人の幸福度は性格などによらず刻々と変化し、幸福度が高くなるとターゲットを速く見つけられることが分かった。

幸福度の変化 つまり日常生活で人が感じている幸福度の高低により、人の基本的機能のパフォーマンスが違うことが明らかにされた。この知見は、視覚探索課題のパフォーマンスをモニターすれば、人の幸福度を推定できることを示唆している。そして、うつ病など心の病の兆候を「見える化」する手法の開発に役立てられるだろう。

アプリなどでのトレーニングによって視覚探索を速くして幸福度を上げ、心の未病の「改善」を可能とする手法開発を目指すという。この度の研究成果は「PLOS ONE」に掲載された。