筋肉の再生を促進させるスイッチを発見

科学技術振興機構(JST)は、マウスの骨格筋の再生を促進するのに必要な、これまで知られていなかった新たなヒストンタンパク質(以下、ヒストン)を発見したと発表した。今後の幹細胞研究や再生医療への応用が期待される。

九州大学 生体防御医学研究所の大川 恭行教授、原田 哲仁助教、前原 一満助教の研究グループが、早稲田大学の胡桃坂 仁志教授、東京工業大学の木村 宏教授、徳島大学の竹本 龍也教授、長崎大学の小野 悠介准教授らとの共同研究で発見。研究成果は、英国科学雑誌『Nature Communications』に公開された。

ヒストンは、遺伝情報が記された全長2メートルもの糸状のDNAを数マイクロメートル以下の細胞核内に効率よく格納するために必要な糸巻きとして機能するタンパク質。大川教授らは、2015年にヒストン亜種を新たに14種類発見し、世界から注目を集めていたが、これらの機能は不明なままだった。

今回、大川教授らが発見したこれらのヒストン亜種のうち、「H3mm7」と名付けたヒストンが、筋肉の再生に重要であることを明らかにした。H3mm7はマウスの筋肉(骨格筋)中にわずかに存在する筋幹細胞に多く含まれていた。筋幹細胞は、筋損傷が生じると速やかに増殖し分化することで、短時間に筋肉を再生する。これにより、生体内で最大の体積を占める筋肉の恒常性が保たれている。

ところが、H3mm7遺伝子を欠損したマウスでは筋幹細胞の数は変化しないにもかかわらず、損傷後の筋肉の再生が遅延することが分かった。その後の解析で、ヒストンH3mm7は筋幹細胞内でDNAを緩めることで細胞内の遺伝子が働きやすくする作用があることが分かった。

研究グループによると、ヒストン亜種は主要なヒストンとDNA配列から類似性が高く区別が困難であったことから、その存在が見過ごされてきたという。今回の研究成果は、これらヒストン亜種が私たちの体を形成する細胞や組織の恒常性維持(筋再生など)に機能している可能性を示唆しており、今後、これらの機能破綻により引き起こされる疾患の発見や治療法の開発が期待されると説明する。