沈み込みプレート境界で起きるスロースリップに伴う水の挙動を解明

東北大学は、茨城県南西部のフィリピン海プレートの上部境界周辺で発生する地震の波形を解析することで、プレート境界で約1年周期の「スロースリップ」(ゆっくりすべり)が発生し、それに伴って水が浅部に排出されていることを解明したと発表した。

東京工業大学 理学院 地球惑星科学系の中島淳一教授と東北大学 大学院理学研究科の内田直希准教授の研究グループ。研究成果は、英国科学誌『Nature Geoscience』電子版に掲載された。

1990年代初めまでは、沈み込むプレートの上部境界は普段は固着しており、地震としてすべるか、またはずるずると安定的にすべるかのいずれかであると考えられていた。しかし1990年代後半に入ると、プレート境界でのスロースリップが世界の沈み込み帯で相次いで報告された。

スロースリップはプレート境界の巨大地震震源域の周辺で周期的に発生することが多く、震源域への応力蓄積に重要な役割を果たすと考えられている。一方で、スロースリップの発生域は水に富む領域であることが分かってきたが、スロースリップに伴う水の挙動は未解明だった。

研究グループは、2004年から2015年に発生した地震を用いた解析により、繰り返し地震の活動が約1年周期で活発化すること、その活動と同期してプレート境界直上の地震波の減衰特性が大きくなること、さらにそれから数カ月遅れて浅い地震活動が活発化することを明らかにした。

今回の研究成果はスロースリップによって「水の移動」が起こることを示している。解析領域である茨城県南西部では、プレート境界から放出された水により上盤プレート内で地震活動が誘発された。しかし、上盤プレートの透水性が低く水が抜けにくい場合には、水はプレート境界を伝わり浅部に移動すると考えられる。移動した水がプレート境界の破壊強度を低下させ、そこで地震を誘発する可能性がある。これまで指摘されていなかったスロースリップの新しい役割だという。

今回の研究で明らかにした「プレート境界からの排水により地盤の構造が変化し、地震が誘発される」という現象は、人工的な注水実験でみられる活動の推移とよく似ているという。注水実験では、誘発される地震数は水の注入量に比例し、注水が終わると地震活動が低調になること、注水により岩盤の地震波速度が変化することが報告されている。この研究成果は、関東地方の地下において「天然の注水実験」が進行していることを示唆しているという。