AIにて臨床試験を立案、新薬開発の成功率アップをめざす

新薬の開発には膨大な時間と莫大な費用がかかる。候補物質の探索・選別といった基礎研究に始まり、動物を用いた効能や安全性試験に合格した後、3ステップの臨床試験を経て、製造販売の承認申請――薬効・安全性が認められ、販売後の調査でもそれらが確認されたものが新薬になる。

日本国内の新薬メーカーの事業環境は非常に厳しい。

薬価の引き下げやジェネリック医薬品の大幅なシェア拡大により、それはさらに厳しくなると予想されている。継続的な事業の成長に向けて、アンメット・メディカル・ニーズ(有効な治療方法のない疾患に対する医療ニーズ)に応える新薬を早期に開発するためのプロセスの見直しが求められてる。特に、人への投与で新薬の有効性や安全性を検証する臨床試験は、新薬開発の成否を左右する重要なプロセスだが、精緻な実施計画の立案が求められるため、多大な時間と熟練者の知識・経験をもとにしたノウハウが必要であったという。

田辺三菱製薬と日立製作所は、新薬開発における臨床試験の効率化に向けた協創を開始した。臨床試験全般の幅広い業務において、日立のAI(人工知能)など先進のデジタル技術を用いて臨床試験を効率化し、新薬開発の期間短縮と開発コスト削減、および成功確率向上をめざす。

両社は、上述のような事業環境と新薬開発プロセスの実態の下、臨床試験の計画段階において、医学論文や米国立データベースClinicalTrials.gov等からの専門的な医学情報の検索・収集に多くの時間を要していることに着目――。'17年初めから共同で、情報検索・収集の自動化を検討してきた。医療向けの自然言語処理やディープラーニング(深層学習)などのAI技術を活用することで、熟練者のノウハウに依存していた従来の作業と比較して、情報収集の時間を約70%短縮できることを確認。収集・整理されたデータの正確性も検証し、十分に活かせる見通しを得た。そしてこのたび、臨床試験全般の幅広い業務の効率化に取り組み始めたという。

将来的には協創範囲を拡大し、さまざまな実証実験を行う予定であり、日立は、「医薬品の創製を通じて、世界の人々の健康に貢献します」が企業理念の田辺三菱製薬との協創を通じて開発したソリューションをベースに、第一段階として、IoTプラットフォーム「Lumada」を活用し、医学文献などからの情報収集を自動化する技術を、汎用化したソリューションコアとして、'18年度から順次、国内外の製薬業向けに広く提供していく構えだ。