深層学習によって「蛇の回転錯視」の知覚を再現

基礎生物学研究所 神経生理学研究室の渡辺英治准教授は、同研究所の八杉公基研究員と立命館大学の北岡明佳教授、生理学研究所の坂本貴和子助教、サクラリサーチオフィスの田中健太博士との共同研究によって、深層学習機が「蛇の回転錯視」が引き起こす運動知覚を再現することを、新たに発見した。

深層学習機は、脳の神経ネットワーク構造や動作原理を参照して設計された人工知能の一つであり、近年、画像分類や音声認識など、幅広い分野で画期的な成果を収めているだけでなく、脳の動作メカニズムを研究するためのツールとしても期待が高まっている。

今回研究グループは、大脳皮質の動作原理として有力な仮説の一つである「予測符号化理論」を組み込んだ深層学習機によって、錯視の再現ができるかどうかを検証した。深層学習機に、我々の日常生活などの自然な情景を撮影した動画(約5時間)を繰り返し学習させたところ、学習した後の深層学習機は、実際に動いているプロペラが回転する動きを予測するだけでなく、「蛇の回転錯視」が引き起こす、あたかも画像が回転しているかのように見える回転運動様の錯覚すらも再現することが分かった。

この研究成果は、錯視を深層学習機が再現した世界で初めての事例であり、錯視を引き起こすメカニズムの一つとして予測符号化理論が有力な仮説であることを支持している。今後、錯視を判断基準にした深層学習は、脳の動作原理の解明に貢献すると期待される。研究成果は、学術誌『Frontiers in Psychology』に掲載された。