ICTでレモン栽培、国産品の安定供給へ

梶井基次郎がそれをモチーフに短編小説を書いた。さだまさし、岩崎宏美、近年では遊助も、それを歌った。「檸檬」はしかし、西洋果実のイメージが強く、基次郎の「私」が丸善の本棚に置いたのも輸入品の「レモン」であったろう。

いま、町の果物店で国産レモンに出会うと何だか嬉しい。憂鬱は吹き飛び、唾液がじわっと湧いてくる。唐揚げの上空で絞る、スライスしてグラスに投入する、皮をマーマレードにし果肉をジャムにする手もある、国産レモンはそのままがぶりとかじりつきたい。食の「安全安心」を背景に、一時低迷していた国産品の人気が高まっているものの、寒さに弱いことなどから常に出会えるとは限らない。それを書店で爆発させるなんて悪魔の仕業だ。

「レモン」と一口に言ってもその種類は複数あり、日本では米国カリフォルニア州と同様、比較的寒さに強いリスボンとユーレカ種が栽培されているらしい。レモンの原産地はインドのアッサム地方で、その後地中海沿岸および新大陸に渡り、特にイタリアで栽培が盛んになった(農林水産省Q&Aサイトより)。ユーレカ種はイタリア半島の南端に浮かぶ地中海最大の島シチリアが原産ともされている。真偽はともかく、地中海と言えば、瀬戸内海を思い浮かべる――閑話休題。

国産レモンの生産量は約1万トン、そのうち約6割が広島県で生産されている。需要が拡大していて、安定的確保が大きな課題となっている。レモンの生産は、十分な日射量を得るために急な斜面で行われることが多く、生産者の高齢化が進む現在、栽培面積の拡大や新規就農者の参入、それに伴う生産量の拡大が進んでいないという。サッポロホールディングスは、第4回日本ベンチャー大賞「農林水産大臣賞」を受賞したルートレック・ネットワークス社と共に、ICT(情報通信技術)を活用したレモンの栽培試験を今春から広島県大崎上島町で本格的に開始する。

これまで生産者の経験に基づいて行われてきたレモン生産に、ICTを取り入れ、農業活動を数値化することにより、レモン栽培を効率化し、さらにレモン果実の高品質化を図る。研究を通して、サッポログループの基幹事業であるレモン、中でも国産レモンの安定的な供給量の確保と、栽培面積および担い手の拡大を通じた国産レモンの生産振興を目指すという。取り組みは、「露地栽培でのデータ収集とその活用研究・実証」と「施設栽培でのデータ収集とその解析研究・実証」の2種類。

栽培データの蓄積と、それによる施水・施肥をAI(人工知能)にて自動化できる、「ゼロアグリ」の技術活用により、レモン生産の効率化とともに、適切に制御された施水・施肥によるレモン果実の高品質化が期待できる。生産者の高年齢化対策、後継者の育成、さらには新規就農者の参入にも期待を寄せる。両社は、今回の研究成果を国産レモンの生産振興、そして将来海外のレモン生産振興にもつなげていく考えだ。