ネコの血清アルブミン構造を宇宙で解明、どうぶつ医療が前進

家に住んでいてちゃんと名前がある、イヌやネコはペットじゃない。家族だ! かかりつけの医者だっているという人が増えた日本では昨秋、ネコの飼育頭数がイヌのそれを越えた。理由は「ネコ派が増えた」にあらず、住宅事情や飼い主の高齢化などによるものだろう。

ペットフード協会の推計資料を見ると、ネコの飼育頭数は横ばいなのに対してイヌのそれは右肩下がり。だが世界では、家つきのネコとイヌの数は6億2500万vs.4億2500万で、人気の軍配はネコにあがっているという。近年、「家族」であるペットの高齢・肥満化が進み、動物医療の需要は増え続けていて、治療のための「輸血」頻度も増加傾向にある。がその体制は十分ではない。日本においては、動物用血液の備蓄システムさえ存在せず、輸血を要する重症動物については、獣医自身がドナーを探して血液を準備しなければならない。

深刻な輸血液不足の問題を抱える獣医療の現場では、人工血液、特に「赤血球の代替物となる『人工酸素運搬体』」の需要はきわめて高く、世界的に見ても、その開発と実現が強く望まれているという。中央大学の研究チームがネコ用人工血液の開発に成功したと、きょうJAXAが発表した。

同研究チームは遺伝子組換えネコ血清アルブミンを産生し、X線結晶構造解析からその立体構造を解明。さらに酸素輸送タンパク質であるヘモグロビンを遺伝子組換えネコ血清アルブミンで包み込んだ「ヘモグロビン-組換えネコ血清アルブミン・クラスター」(製剤商標名:ヘモアクト-F)を合成し、それがネコ用人工酸素運搬体として機能することを明らかにした。この運搬体は、輸血液の代わりに生体へ投与可能な人工血液となる。
遺伝子組換えネコ血清アルブミンの結晶化は国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟で行われ、JAXAは、この実験機会の提供と結晶化、構造解析を担当したとのこと。

その表面電荷はマイナスに帯電しているため、血管内皮細胞からの漏出はなく、血圧上昇(副作用)もなく、血中半減期はアルブミンよりも長いと思量される。その原料はヘモグロビン、遺伝子組換えネコ血清アルブミン、架橋剤(市販品)のみであり、製造工程は2ステップと少なく、簡単に合成することができ、特殊な装置を一切必要としない。

「ヘモアクト-F」は、赤血球代替物(出血ショックの蘇生液、術中出血時の補充液、病院搬入途中における酸素供給液、貧血猫への酸素供給液)としてはもちろん、心不全・脳梗塞・呼吸不全などによる虚血部位への酸素供給液、体外循環回路の補填液、癌治療用増感剤などとしての幅広い応用が考えられ――。動物医療の現場が抱える深刻なドナー確保の問題を解決する画期的な発明であり、動物の輸血療法に大きな貢献をもたらすと期待される。

研究成果は、英国王立化学会の学術誌「Journal of Materials Chemistry B」電子版に掲載された。