早稲田大学理工学術院の野田優教授は、東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の伊原学教授、長谷川馨助教らと共同で、結晶欠陥密度をシリコン(Si)ウエハーレベルまで低減した高品質単結晶Si薄膜を、これまでの10倍以上の成長速度で作製することに成功した。
伊原教授らは単結晶ウエハーの表面に電気化学的手法で2層のナノオーダーの「ポーラスシリコン」を作製。独自のゾーンヒーティング再結晶化法(ZHR法)で表面荒さ0.2~0.3nm(ナノメートル)まで平滑化した基板を使って高速成長させ、高品質の薄膜単結晶を得た。
成長膜は2層のポーラスSi層を使って容易に剥離できる。ZHR法の条件を変えて下地基板の表面粗さを低減すると、結晶薄膜の欠陥密度が徐々に減少し、最終的に約10分の1のSiウエハーレベルまで低減できた。わずか0.1~0.2nmの表面荒さが結晶欠陥の形成に重要な影響を与えることを示したもので、同研究グループによると、結晶成長メカニズムとしても興味深いものだという。研究成果は英国王立化学会ジャーナル『CrystEngComm』に掲載された。
伊原教授らが開発した単結晶Si薄膜作製技術は原料収率を100%近くまで向上できる。このため、現在、太陽電池の多数を占める単結晶シリコン太陽電池並みの発電効率を維持したまま、高速成長による製造装置コスト、薄膜化・高原料収率による原料コストを大幅に低減できる技術として期待できるという。
今回の成果によって、リフトオフ法に用いるポーラスシリコン上に高速成長させる際の結晶としての品質向上の主要因を明らかにするとともに、その制御に成功した。今後は、より太陽電池性能に直結する薄膜のキャリアライフタイムの測定、実際に太陽電池を作製して技術の実用化を目指す。また、30%超の効率を持つタンデム型太陽電池用の低コストボトムセルとしての利用も検討するという。