先進宇宙開発を支える「マイクロ推進システム」に関する論文

東京農工大学は、宇宙でのマイクロ推進システムに関するレビュー論文がアメリカ物理学協会の学術誌『Applied Physics Reviews』に掲載されたことを発表した。

レビュー論文は、東京農工大学 大学院工学研究院 先端機械システム部門の篠原 俊二郎卓越教授と東京大学 大学院新領域創成科学研究科 小泉宏之准教授らが世界の研究者たちと執筆した。

プラズマを用いた超小型人工衛星(マイクロ衛星やナノ衛星と呼ばれ、重さ1kg~100kg)は多目的かつ経済的に使えるため、急速に発展して宇宙開発の主要な分野となりつつあり、宇宙探査にも重要になっている。

超小型人工衛星では、姿勢や軌道の制御のために、電気推進機からプラズマを噴出して推進力とする「マイクロ推進システム」が必要となる。2017年6月、この分野で世界を牽引する研究者がイタリアのバーリに集まり、先進の研究成果と今後の進展に関して、集中的な議論を行った。この議論をベースに国際共同解説論文(11カ国からの著者で総数20人)が執筆された。

会議の主要メンバーであり、解説論文の著者でもある篠原卓越教授は長年の高密度ヘリコンプラズマ科学研究分野において、世界最大や最小サイズなど世界記録を更新する多くの特徴あるプラズマ源の開拓と、生成機構や波動現象解析などの解明を行ってきた。

さらに、それらの成果をベースに次世代の先進プラズマ推進ロケットを開発するなど、種々の応用研究でも世界を牽引してきた。このヘリコンプラズマは、磁場のあるところでアンテナに高周波電流を流して生成するプラズマ。ヘリコンプラズマを使うことで、1ミリリットルあたり10兆個という非常に高い電子密度が得られる。

このため、基礎科学だけでなく半導体製造やプラズマロケットなど、様々な分野への展開が期待され、注目を集めている。今回は篠原卓越教授の豊富な成果を基に、ダブル高周波電源使用と高い周波数印加など工夫して、世界最小サイズを更新(直径1mmまで)するユニークなヘリコンプラズマの生成と特性評価で論文に貢献しているという。

東京農工大学によると、このレビュー論文によって総括した知見と展望により、今後さらにプラズマを用いたマイクロ/ナノ衛星や宇宙探査船などの開発分野への幅広い多角的展開が期待されるという。