砂漠の洪水、灌漑用水に変えて運用

中東や北アフリカをはじめ世界全体に広く分布する乾燥地域においては、外来河川や化石地下水への過度の依存や塩類集積といった問題が顕在化し、過酷な環境の中で限定的な水資源を有効利用する灌漑農業を確立することが喫緊の課題となっている。

と同時に、上記のような乾燥地における突発的洪水による被害が拡大している――。そのため、これらに対処するための灌漑システムが求められていたという。京都大学と、ムタ大学の国際研究グループは、アラビア半島北西部の王国ヨルダンの乾燥地域において、洪水を灌漑用水に変えるシステムのプロトタイプを構築し、厳密な数学的根拠に基づく最適戦略によって貯水池の運用を開始したときょう発表した。

プロトタイプを水理学や水文学、とくに数値流体力学の知見に基づいて設計、施工した。同研究グループは、水資源利用工学と解析学の学際的研究の成果として、厳しい環境下での水資源開発において、このプロトタイプが実現可能な選択肢であることを確認。特に、ある種の偏微分方程式に対する「粘性解」の概念を用いることにより、ポンプの運転/停止切り替えのような滑らかでない最適運用戦略を取り扱うことが可能になった。その方程式を大型計算機にて解くと、取水制限を行う管理目標水位が得られたという。

農業水利施設の運用戦略について厳密な数学的方法論に基づいた検討を行った例としてはこれが初めてになる。「このような農業工学と数学の異分野協働により、経験値の合理性の解明や、過酷な環境条件下での水資源開発手法の体系化が、一層進んでいくことが期待されます。また、継続中の実証研究では、ナツメヤシが順調に生育しており、研究の新たな展開と併せて大変楽しみな状況です」と研究者が語った。

成果は今月5日、国際学術誌「Stochastic Environmental Research and Risk Assessment」電子版に掲載された。