情報通信
21世紀の"エニグマ"で光ネットワークを安全に
第二次世界大戦中、暗号化装置「エニグマ」のコード解読は不可能とされた。常識を英国の数学者アラン・チューリングが覆した事実は映画にもなり、彼の功績がのちの商用コンピュータ全盛期をもたらした。英語圏では不可思議な物事を、いまも「エニグマ」という。
装置エニグマと同様、現代のコンピュータは数理を基にした秘密鍵を用いている。マシンの高性能化が急速に進み、サイバー犯罪が巧妙化しつつ増加していることを背景に今、産業や社会システムで多用される数理暗号の解読される危険性が指摘されている。量子力学的原理を用いた「量子コンピュータ」の商用化で、チューリングマシン以来の安心安全が崩れ去る。他方、「量子エニグマ」の研究も進んでいる。
真に定量的安全性を保証するため、物理暗号の暗号文が量子雑音効果によって完全な乱数になる機能を付与された――秘密鍵を基盤とする暗号の頂点、「量子エニグマ暗号」の研究を進めている玉川大学と、産業技術総合研究所のデータフォトニクス・プロジェクトユニットは共同で、量子エニグマ暗号トランシーバーをネットワークに応用し、安全性を高めた低遅延な全光ネットワーク技術を実証した。
産総研が都内で運用を進める回線交換型全光ネットワークのテストベッドに、玉川大学が開発した量子エニグマ暗号トランシーバ(GbE対応)を導入して行われた。光のまま情報のやり取りを行う上記ネットワークでは、利用者の要求に応じて帯域保証された光パスを張る仕組みを取っていて、超低消費電力かつ低遅延の大容量データ伝送ができ、量子エニグマ暗号トランシーバでは、この光パスのセキュリティ強化を図った。
フル高解像度(HD)映像配信や遠隔地へのデータバックアップなどを実行したほか、通信障害復旧を想定した通信経路切替を実施した。既存インフラでの利用が可能だという。暗号通信の成果は、来週米国で開催される「OFC2018」にて発表される。