口腔医療AI、身近でよりスマートな社会へ

超高齢化の時代をゆく日本では、政府が「超スマート社会(Society5.0)」の旗を振る。その姿とはどういうもので、それが生み出す価値とは――

平成27年内閣府資料によると、「(前略)あらゆる人が質の高いサービスを受けられ、年齢、性別、地域、言語といった様々な制約を乗り越え、活き活きと快適に暮らすことのできる」社会において、「人とロボット・AI(人工知能)との共生」や、「オーダーメイド・サービスの実現」、「サービスの格差の解消」などといった価値を創出――。「地域包括ケアシステムの推進」といった価値が例説されているものの、それでどんな良いことがあるのかよくわからない。市民が、もっとも身近に感じるのは歯科医院だろう。うがい歯磨きならほとんどの人が毎日している。

近ごろ、生涯にわたり口腔機能維持によるQOL(生活の質)向上の必要性や、地域包括ケアの重要性がますます注目され、大規模な医療情報を安全かつ安心な形で活用し、新しい歯科サービスの創出や社会的課題の解決に役立てようとする動きが活発化。米国では医療機関と情報技術企業の連携による予防・診断システム開発が急ピッチで進められていて、日本でも、「かかりつけ医」制度を基点とする地域の医療機関等との連携が進められているが、医療情報まで含めた包括的な連携は従来、特に歯科医学分野おいて十分な枠組みがなかったという。

大阪大学 歯学部附属病院、同サイバーメディアセンター、NECの3者は、NECのスーパーコンピューティング技術によって構築されたクラウドサービス基盤と、大阪大学で開発されたAI技術を用いて、医療情報を処理することにより、地域と連携しながら新世代の「口の健康増進」を実現する「ソーシャル・スマートデンタルホスピタル(S2DH)」構想の取り組みを開始する。

同構想では、歯学部附属病院の診療現場にて、安全かつ効果的な治療方法を、データに基づいたAI分析によって戦略的に導き出し、患者に治療の選択肢を提供。またサイバーメディアセンターでは、これまで歯学部附属病院で蓄積してきた最先端の歯科医療のノウハウを広く地域に活かすためのICT(情報通信技術)サービスプロバイダとしての役割を担っていく。これにより、大阪大学全体として、より患者の嗜好に合致した包括的な治療方法を提案することで、家庭でも可能な異常の早期発見など、日常的な口腔健康維持に貢献することを目指す。

3者はすでに具体的な取り組みを始めていて、歯学部附属病院では、「矯正歯科用」、「舌粘膜病変」、「歯の喪失」の3領域でのAI活用を、サイバーメディアセンターでは、病院のデータを計算機センターで高速処理するための「セキュア・ステージング」の研究開発を、NECとともに進めている。これらを基に、'18年度から「歯周病AI」と「一般歯科AI」の構築を中心とする実証実験を開始する予定とのことだ。