肺がん分子標的治療薬に対する新たな耐性メカニズムを発見

現在、日本におけるがん死因の第1位は肺がん。年間約11万人がそれを発症し、約7万人が死亡している。肺がんの約85%を非小細胞肺がんが占めている。

非小細胞肺がん患者の約2/3は手術不能(進行がん)であり、分子標的治療が有力手段の一つとなっている。けれども、がん細胞が獲得する分子標的治療薬への耐性が、治療効果の大きな障壁となるという。国立がん研究センタ-は、京都大学、東京大学、理化学研究所、英国クリック研究所と共同で、分子標的治療薬「バンデタニブ」によって治療されたRET融合遺伝子陽性の肺がん患者のがん試料の機能ゲノム解析を行い、新しい薬剤耐性メカニズムを発見した。

RET遺伝子融合は、'12年に新しい肺がん治療標的分子として発見され、全国遺伝子診断ネットワーク「LC-SCRUM-Japan」に基づいて同定された陽性例を対象とした医師主導治験により、バンデタニブの治療効果が報告されている。そして今回の研究では、バンデタニブが奏効し、後に耐性化したRET遺伝子融合陽性の肺がんのRET遺伝子上に生じた二次変異について、X線構造解析、スパコン「京」等を用いた分子動力学シミュレーションなどを組み合わせた機能ゲノム解析を行うことで、これまでとは異なる新しい薬剤耐性機構を見出した。

これにより、薬剤の結合部位から離れた位置に存在するアロステリック効果を持つ遺伝子変異が、分子標的薬剤に対する耐性の原因となることが明らかになった。がん細胞のゲノムには多くの遺伝子変異が生じている、そのことがわかっているものの、それらの多くは、がん化や治療に関する意義がわからないVUS(意義不明変異)であり、このたび用いた手法は、これら意義不明変異を解明し、治療の方針決定の手助けになると期待される。

研究結果は米国学術雑誌「Nature Communications」に掲載された。